イレギュラー

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 その日は土曜で一応、部活は休みということになっていた。自由参加という建前で大勢の部員が来ていたが、終わったのは、いつもより早い三時だった。  片付けが終わった後も俺は一人残り、黙々と走り込んだ。  レギュラーを諦めたわけじゃない。  ピッチャーなんて、ちょっとしたことで調子を崩すことがあるし、故障することもある。代わりが必要になることは多い。  三十分ほど走って、終わることにした。部室から鞄は持ってきていたので、そのまま帰ろうとした時、タバコの匂いが流れてくるのに気づいた。  帰ったと思ったのに、木下監督が見てくれていたのかと嬉しくなった。  匂いのする方へ向かおうとして、すぐに気づいた。これは先生じゃない。生徒が吸っている。煙は校舎の裏の方から流れてきている。  休みの日にわざわざ、学校で吸っているなんて、一体誰なんだろう。  気になって、こっそり近づくと、植え込みの陰からのぞいて見た。  しゃがみ込んで、タバコを吸っていたのは冴島だった。難しい顔をして、吸っている。  俺はスマホを取り出すと、動画撮影を開始した。写真のシャッター音より小さい音なので、これなら、気づかれないだろう。全身とズームしてタバコを吸っている顔のアップを撮ると、こっそり離れた。  さて、どうしよう。レギュラーになるチャンスだ。  冴島を脅そうか。バレたくなければ、怪我をしたと言って、部活を休めとか。  でも、脅したら、開き直って、自分の喫煙を外部にバラすかもしれない。そうしたら、対外試合禁止になるかもしれない。  冴島がレギュラーから外れ、部は大丈夫というようにするにはどうしたらいい?  監督に言えば、部が大丈夫なように外には漏れないようにしてくれそうだ。ただ、お気に入りの冴島は何の処分も無しで終わってしまうかもしれない。  原コーチはどうだろう。部の活動は守ってくれるだろうし、生真面目なところがあるから、冴島を見逃したりはしないだろう。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加