イレギュラー

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 俺は結局、原コーチに相談という形で告げ口した。 「わかった。きちんと対応するから、この動画はもらえないか? そして、できれば、オリジナルは消してもらえないだろうか。きっと、撮影者が誰か、犯人探しが始まると思うんだ」  原コーチなら信用できる。  コーチの言葉に納得し、動画を渡した後、自分のスマホのデータは消した。  それから、コーチの注意に従って、いらないことはしゃべらず、いつも通りに過ごした。いつ、冴島が処分されるのか、楽しみだった。  話があると、野球部全員が講堂に集められた時、みんな不安そうにしていたが、俺はいよいよ冴島の処分が発表されるのだと浮かれていた。  監督はいなかった。野球部全員と聞いていたのに、レギュラーメンバーもいなかったので、監督と一緒に別に話を聞いているのかもしれない。  説明を始めたのは原コーチだった。 「辛い話だが落ち着いて聞いてほしい。部内での喫煙が発覚した。タバコを吸っていたのはレギュラー全員。反省しているようだから、部活を継続してもらいたかったのだが、すでに退部届けを受け取っている」  笑いを噛み殺して、神妙な表情を作る。それにしても、冴島だけじゃなかったのは意外だった。バレたら、こうなるのはわかっていただろうに、タバコを我慢できなかったのだろうか。  その次に現れたのは校長だった。校長の話は回りくどく、なかなか本題には入らなかった。 「……というわけで、明日、記者会見を行う予定ですが、甲子園出場は辞退しました。今まで頑張ってきた皆さんにとっては、辛いこととは思いますが……」  どういうことだ。てっきり、外部には公表せずに済ますと思ったのに。出場辞退なんて。もう、俺には機会がないということじゃないか。  校長の話が続く。 「責任を取って、木下監督は辞任となります。後任は原コーチです」  そうか、甲子園辞退がなければ、原コーチが監督になる日なんて、いつになるかわからなかった。だから、コーチは隠さずに外部に公表する道を選んだんだ。  原コーチ、いや、原監督の方を見ると、目が合った。新監督は幸せそうに笑った。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加