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二人はベンチに座って、休憩をすることにした。
砂場にあるヨータの家は遠くから見ても、なかなかのけっさくだ。
ほんと、作ってよかったなぁ。
「いつも公園にいるけど、お家には帰らないの?」とヨータはなんとなく男の子に訊く。
男の子は、へらりと笑ってなにもいわない。
その誤魔化すような顔を見て、もしかして嫌なことを訊いてしまったんじゃないかと、ヨータは思う。
例えば、お母さんと喧嘩をしてる最中で、家に帰りたくても帰れないとか。
もしそうだとしたら、今度はぼくが力になってあげよう。代わりにぼくが家に帰って、お母さんと仲直りすればいい。
「実はね、ボクってお母さんとお父さんがいないんだ」
ヨータはなんていえばいいか分からずに黙り込んでしまう。
お母さんと、お父さんがいない世界。
そんな世界はきっと、ヨータには想像出来なかったんだろうね。
「だからさ、ヨータの代わりに家に行けたとき、ほんとに嬉しかったんだ。お母さんも、お父さんも、優しい人だったからさ」
「じゃあさ、二人で一緒にぼくの家に帰ろうよ」
その言葉は、ヨータが考える間もなく、勝手に口から出たものだった。
「え?」
「きみに帰る家がないのなら、ぼくの家に来ればいいよ。きっと、お父さんも、お母さんも喜んでくれると思うんだ」
昨日のお母さんを思い出す。
お母さんは、ぼくに弟が出来なくなって、すごく悲しんでいるようだった。
きっと、お母さんは自分じゃもう子供を産めないんだ。
だから、あんなに悲しい顔をしてた。
「ボクはキミになってもいいの?」
確かめるように、男の子は言う。
「もちろんだよ。ぼくたちはもう兄弟みたいなもんじゃないか」
その瞬間、男の子の背中に書かれていた文字が、ぽろぽろと地面に剥がれ落ちていく。
紙から出てきた、黒い線のような文字たちは、やがて風に吹かれて、どこかに消えていってしまった。
二人はびしょ濡れの服を着てから、風に吹かれて同時にくしゃみをする。
照れるように、二人とも自分の鼻頭を触ってから、家に向かって歩き出す。
家に帰って、お母さんと、お父さんの驚く顔が目に浮かぶ。
きっと喜んでくれるだろうなぁ。
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