流刑島の現実

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流刑島の現実

 足の手術から数日、熱も下がって状態もひとまず順調。トビーもまだ自由に動けはしないが元気にしている。  そうなると、好奇心たっぷりの視線が沢山なわけだ。 「ねぇ、トビーはどこからきたの?」 「足痛いの?」 「お仕事何?」  島には案外子供がいて、まだ十歳に満たないくらいの子供達がひっきりなしに来る。どうやら仕事の合間に余所者であるトビーに会いに来ているようだ。 「こらお前等! それじゃ怪我が治んねぇだろ!」 「いいって、ステン。外からの客なんて滅多にないんだろ? そりゃ、興味あって当然だって」  漁に出て魚やらを捕ってくる事はあっても長く留守にはしないステンがこれを叱るのだが、トビーとしては納得もできる。何よりまだ左足に力をかけると痛む為、自由に動き回れない。ようは暇なんだ。 「俺は帝国から来た騎士だよ」 「きし?」 「国や、住んでる人に悪い事をする奴を捕まえるお仕事だ」 「強いんだ!」 「まぁな!」 「怪我してんのにな」 「うっせぇステン! これは、なんていうか……油断」 「余計ダメじゃね?」 「うっせぇ!」  この状態だと本当に締まらないし説得力がない。赤くなって否定するとドッと皆が笑う。それはちょっとだけほっとする。  この島の現状はあまり良くない。土地は痩せていて思うように作物は育たない。その為、野菜なんかは他国に買いに行かなければならない。その為の外貨を稼ぐには漁をするわけだ。  幸いこの辺りは豊かな海で魚も豊富だ。だがそこにウェールズが入り込んで荒らしまくっている。聞けばあいつらが荒らす前と比べると漁獲高は減っているらしい。  更に帝国やジェームダルに売りに行っても、ルアテ島の人間が相手とみると足元を見る。いい魚が二束三文で買いたたかれる事もあるし、計算ができないと見ると安く買い叩く。それが現状だ。 「圧倒的に学が足りない」  それが、ステンの懸念事項だ。 「てかよ、お前は帝国公用語も使えるし計算も出来るんだろ? 他はダメなのか?」 「勉強が出来てもここじゃ生きていけねぇからな。それよか漁をしたり、漁具の補修覚えたり、僅かでも農業したり食いもの探したりが優先だ。俺だって、先祖が代々この島の顔役で本島との繋ぎしてるから仕込まれただけだしな」  夜、僅かばかりの汁物を啜りながらの話はこんなことが多い。帝国に比べて圧倒的に足りていない食事のせいか、遊びにくる子供達は皆痩せている。 「ここはそもそも流刑地だ。中には犯罪を犯したんじゃなく、政治的な何かに負けて流れ着いた奴もいる。そうした奴は学があり、言葉も計算も出来た。俺の先祖がそういう奴だったらしくてな、大事だからって仕込むよう言われ続けている」 「そういうのって、お前の家だけじゃないだろ?」 「昔はもっといたな。だが今はいない。今じゃ流刑はなくなって、言葉が話せて計算が出来れば本島でも生活ができる。そうして徐々に減ってた。もしくは廃れていったんだ」  なんとも世知辛い話だ。  だがこの現状を甘んじて受け入れて行くのがいいのか。トビーからするとそれはノーだ。それじゃ未来なんてない。じり貧になっていく。 「……なぁ、ステン」 「なんだ?」 「俺がここで、チビ達相手に文字や計算を教えるのって、ありか?」  問えば、ステンは目を丸くしている。悪い事を言ったのかとちょっと焦ってしまう。 「いや、問題あるならしないけどよ!」 「バカ、ちげーよ! 逆だって!」  大きな声で返した奴が嬉しそうに笑ってガバッと抱きついてくる。みっちりとした筋肉のついた腕がギュッとホールドしてくるのはちょっと苦しいが、何故か安心もできた。 「お前、マジ良い奴だな」 「いや、世話になってるのに何も出来てなくてさ。貴重な薬までもらったし。まだしばらくは動けないから、勉強くらいしか教えてやれないし。ここに遊びに来る奴に、遊びに来てる時間の間だけだけど」 「十分だ。それで何か意識が変われば学ぼうって奴が増えるかもしれない。そうしたら、この島に留まる必要もねぇ。自由に外に出て行けるんだ」  そう、嬉しそうに言うこいつはなんで島を出ないんだろうな。思うけれど、答えも分かっている気がする。お人好しで、見捨てられないんだろうなって。  眠るときは同じベッドで2人、くっついて寝る。何があるってわけじゃない、単純にベッドがこれだけなんだ。  熱がある間は遠慮して囲炉裏の側で寝てたが、熱も下がってくると申し訳なくなって申し出て見た。拒むかと思いきや普通に「んじゃ遠慮なく」と入ってきて驚いたが、二日もすれば慣れた。  筋肉があって体温も高くて、ある程度狭いから必然的にくっついていて、それが心地よく思えてくる。誰かの体温や心音が近いと寝付きが良いらしいが、まさに実感している。  でもこれに慣れると、戻ってから人恋しくなりそうだ。独り寝でいいって、思い続けているってのに。
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