素直じゃないが

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素直じゃないが

▼トビー  ファウストと決闘なんていう一波乱の後、しっかり第三に囲まれたステンはこの日だけで馴染んだ。元々明るくさっぱりとした性格で人付き合いもいいからだろう。このままの流れで第三で見習いになるんだろうと思う。  何よりウルバスが手放さないつもりらしい。笑顔に迫力があった。  何にしても一通り宿舎を案内して食堂に案内し、仲間内にも顔見せをした。  ステンはひたすら「ここの飯やば!」を繰り返して食べていた。ルアテ島で生活していたトビーとしては、その気持ちが分かるものだった。  何にしても無事に部屋に連れてこられてほっとする。丁度同室が部屋を移って一人だったから空いていたし。  何よりこいつと、色々と話さないといけないことがあるんだ。 「広くて快適そうだな。二人部屋だっていうからもっと狭いのかと思ったけど」  暢気にしているステンは物珍しく辺りを見回している。そのステンの後ろでトビーは睨んでいた。 「……あ~、怒ってる?」 「当たり前だ!」  気づいていたんだろうステンが誤魔化すみたいに言うけれど、誤魔化されてなんかやらない。怒らないわけがないんだ。 「お前、分かってるのか! ファウスト様に喧嘩売って無事だったのはあの人が慈悲深かったからだぞ!」 「いや、実力違い過ぎてそんな無残な事にはならないし、立場とか状況もあるから骨の一本程度で収まるだろうって」 「誰だそんな無責任な事言ったのは!」 「ランバート」  あいつ、一度とっちめてやる。  鼻息も荒いトビーに、スレンは苦笑して近づいて頬に手を触れる。そしてとても自然に触れるだけのキスをした。 「!」 「ごめん、俺がお前の側にいたいって無理を言ったんだ。怒らないでやってくれ」 「側にって……俺はルアテ島に常駐できるようにお願いするつもりだったんだぞ」  やっぱり関わったあの島の今後が気になるし、せっかく仲良くなった奴らの側にいたい。だから砦建設前でもルアテ島に積極的に遠征したいと思っていた。  だからこんな無理をしなくても、結果的に側にはいたのに。  でもステンを見ると違うんだと言われている気がする。手が伸びて背中に回って、しっかりと抱き留められた。 「でもそれは、一般人と騎士だろ?」 「え? あぁ」 「それじゃ、何かあったとき俺はお前の側にいられない。お前等騎士は有事の時には一般人の避難を優先する。俺がどれだけ側にいたいって言っても、それは叶わないんだろ?」 「あ……」  それは、そうだ。  騎士は民を守り国を守る。有事の際、優先されるのは一般人の避難。そこにはステンも含まれる。彼がどんなに側にと言っても、それをトビーが本心では望んでも、立場上許されない。  ステンは小さく笑う。黙ってしまったトビーを、優しく見つめている。 「トビーがルアテ島に来るってのは、真っ先にあの人からも言われた。でも俺は一緒に戦いたい。お前の側で、どんな時でも手を伸ばせば捕まえられる場所がいい。だからこの方法を取ったんだ。正直無謀と言われたけれど」 「当たり前だろ」 「あの人本当に強いな。俺、空を飛んだの初めてだ」 「ばか」  まったく、本当にバカだ。出会って一ヶ月のこんな奴を好きだと言ってここまで追いかけて、更には無理を通したんだから。  ありがとう、ステン。正直、俺もお前と離れるのは寂しかったよ。  大人しくなったトビーから少しだけ間を置いて、ステンは優しく笑う。いつもは気の強そうな眉が下がって、目が緩まる。日に焼けた肌のせいで唇のピンクが寧ろ際立つ。その唇が、今度はゆっくりと触れた。 「ん……」  くすぐったくて、甘くて……こんなの生まれて初めて感じる。ステンが与えてくれる感覚は全て初めてのもので、どう対処していいかも分からない。 「カミーユ、側にいていいか? お前の側にいたいんだ」 「そりゃ、俺は……でも俺! 俺……こんなの初めて過ぎてどうリアクションすればいいかも分かんないし、何が正解かも分かんないんだぞ。美人でも、可愛くもないぞ。三白眼で目つき悪いと思うし、口だって悪い。体けっこう傷あるし、だからって料理上手いとか床上手でも」  急き込んで自分を否定し続けて、言いながら「どうしてこいつ俺がいいなんて言うんだ?」と疑問しか出てこなくなった。  そりゃ、好みの基準なんて人それぞれだ。ランバートやコナン、クリフなんかは美人や可愛いで人気ある。レイバンとハリーは床上手っぽいし、第一の三人はいい男だ。トレヴァーだって優しくて気遣い出来て大事にしてそうだ。チェスターは犬だろ。  ドゥーガルドだけは未だに謎だ。あそこだけ異次元で特殊だと思う。  でも、何にしてもそれぞれに魅力があって、秀でた部分がある。  それに比べて自分には何も無い。  でも、呆気にとられて見ていたステンは次に笑って、ぽんぽんと頭を撫でた。 「確かにあのランバートとか、美形だけどさ。俺からしたら綺麗すぎるしちょっと怖い」 「あぁ、それは」 「それに、俺はお前が可愛い」 「可愛い!」 「一生懸命で、ぶっきらぼうでも気遣ってくれて」 「そんな」 「褒めたら赤くなって素っ気なくなるのも、案外寂しがり屋で無意識に近づいてくれるのも、下の奴を大事にしてくれるのも可愛い」 「ちょ、ステン!」 「床上手だったら寧ろがっかりだ。不慣れなくらいが嬉しい。俺だけ知って、俺だけに染めたい。男なら、惚れた相手は自分色にって思うだろ?」 「うっ」  甘く目が笑う。誘いかけて、色気で落とそうとする。絡め取られてしまいそう。  違う、もう絡め取られているんだ。  大きくゴツい手が頬に触れてそっと上向かせる。そのまま触れた唇は厚くて柔らかい。  いつもはここまで。でも今日は違う。薄く開けた目に男臭いステンが映る。気づいて、青い目がふと色を浮かべる。そして次には厚い舌が唇をなぞり、油断しきった口の中へと潜り込んできた。 「んぅ、ふぅ……ふぅん……」  舌が触れあって思わず甘い息が漏れる。ビリッと背中にも痺れがくる。駄目だと思うのに抗えない。絡め取られて吸われて、あちこちを触れられて、敏感な口の中が疼いて仕方が無い。頭が回らなくて全身ビクビクして、全部が気持ち良くなってくる。  こんなの、自慰でも感じた事がない。  唇が離れていくのが名残惜しくて呆けたように半開きのまま。舌、まだ触れられている感じがする。口の中がまだ痺れる。  そんなトビーを、ステンは困った顔で笑った。 「襲われ待ちしてるのか? それとも、気持ち良かった?」 「あ……気持ち、よくて。まだ痺れて……」  頭が回らないまま答えたら、ステンが真っ赤になった。困り顔で頬をかいて、次には担ぎ上げられてベッドに下ろされた。 「……最後までしない。でもこれじゃ生殺しだ。カミーユ、駄目か?」  問われて、困った。  ステンの事は好きだ。多分、友人じゃない。もっと好きが多くて、側にいてほしくて、話を聞いて欲しくて。  それに知りたい。好きなもの、好きなこと。嫌いなことも知りたい。  知らない感情。でもこれが恋愛だっていうなら、何となく腑に落ちる。落ち着かなくて勝手に顔が熱くなって、自分の事なのに分からなくなるくらい混乱する。  同じ気持ちをくれるなら、この先に進むのだって嫌じゃない。 「カミーユ?」 「ステン、俺はお前が多分好きだから」 「! おう」 「お前が俺の事好きならいい。こんな事、俺だけだって言ってくれるならいい」 「お前ねぇ……そんなの当たり前だろ? お前じゃなきゃ、意味がないんだよ」  呆れた顔で頭を掻いたステンの言葉に、トビーは心から笑って「そっか」と呟いた。  脱がされて、ステンも脱いで抱き合った肌の熱さに驚く。逞しく引き締まった体を抱いて互いに角度を変えて何度も繰り返すキスに酔っていく。クラクラして浮いてしまいそうだ。心地よくて、全部夢かもしれない。  そんな気分を打ち砕くように、大きな手が下半身へと伸びてゆるく前を扱かれて、トビーは声を上げた。自分とは違う触り方と体温に驚くと同時に、蕩けるように気持ちいい。 「可愛い」  色気倍増しの掠れ声が嬉しそうに囁く。厚い唇が首筋に触れて吸い付く。これに、情けなくただ受け入れるだけのトビーは「あっ、あぁ」と声を上げた。 「細っこい体だけど、締まってて綺麗だぜ」 「んぅ!」  胸の頂きをチュッと軽く吸い上げられただけでも震える。気持ちいいかは分からないけれど、じわっと変な感じがした。  それに気づいたんだろうステンがニッと笑い、大きな口でパクリと食いつく。そして周囲から全部をやわやわと唇で食んで、舌で弄り始めた。 「んぅ! おま、バカ! それ、なんか……っっ」 「おっ、勃った」 「なにしてくれてんだ!」  ぱっと口を離したらデロデロだし色赤くなってるしなんかツンツン尖ってるしで驚いた。自分の体なのに予想外の反応すぎて戸惑う。  でもステンは悪戯小僧みたいな笑みでその尖った乳首を指で転がしている。  これがまた、変だ。ゾクゾクして声が出そうになる。勝手に腰が揺れてしまいそうだ。 「気持ちいいんだな、ここ」 「そんなわけないだろ。こんな所で気持ちいいなんて今までっ!」 「じゃあ、今から気持ちいい場所になったんだな」  ニッと男の顔で笑ったステンは前を扱きながら乳首を転がし舌で遊ぶ。その全部が混ざって全部が気持ち良くなってくるのに時間はかからなかった。  腰が揺れる、腹の中まで痺れる、胸の奥がうずうずして勝手に声が出る。大きく節のあるステンの手が体を撫でる度に、そこが妙に疼く。  いつの間にか先走りでドロドロで、すり寄せるように足がシーツを蹴っている。そんな自分が恥ずかしくて腕で顔を隠すのに、ステンが邪魔だとどかしてキスをくれる。  死ぬほど恥ずかしいのに嫌じゃない。止めてほしいのに止めないでほしい。もっとキスをして。もっと触って。頼むから、こんな思考を全部絡め取って分からなくして。 「ちくしょう、これは予想以上だ」  青い目を細めたステンが昂ぶりから離れた。そして代わりに、自分のものを押し当ててくる。 「あ……っ」  熱いものが擦れる。それが彼のものだと分かった途端、ゾクゾクした快楽が背を這い上がってくる。気持ち良くて癖になりそうで、知らず自分でも動いて擦りつけるようにしていた。 「エロ……気持ちいいな」 「んっ、気持ちいい……っ」 「蕩けた顔して。お前、快楽に弱いんだな」 「知らない、こんな……こんな気持ちいいの変だ。俺……」  体が勝手に求めて動く。触られていないのにジンジンする。欲しいと気持ちいいで頭の中がパンパンで、他の事が入ってこない。  目の前のステンだけが、どうしようもなく好きだって事しか分からない。  クシャクシャッと頭を撫でられると甘えが出る。これはトビー様ではなくてカミーユの気質。甘ったれで、褒められるのが純粋に嬉しい子供じみた内面がひたすら「嬉しい」と伝えてくる。  こんな姿を見せるのは恥ずかしいと思う反面、嬉しくてキュッと胸の奥が締め付けられてもっとして欲しい。混乱しても喧嘩はしない。両方自分だと、受け入れる気持ちは出来ているから。 「俺も気持ちいいし、バカになりそうだ。カミーユ、すげぇ可愛い」 「んっ」  この「可愛い」だけは否定しよう。お前の幻覚だ、ステン。  なんて、思ったら笑えた。  不意に体をひっくり返されて、天井から布団へ視線が反転する。驚いている間に尻を持ち上げられてギュッと両足を閉じさせられた。  あぁ、とうとうそっちか……なんて思っていたトビーは、予想外のものが足の隙間にねじ込まれて違う意味で目を白黒させた。 「へ? ひぁ! あっ、へ? なんだこれぇ」 「んっ、素股……かな。いや、いきなりは入んないし。まずは気持ちいいことだけ。あと雰囲気」 「そりゃ有り難いけど! あっ、待ってこれ、んっ……擦れ、てっ」  ぴったりと閉じた足の間にねじ込まれた熱いものがヌルヌルと抜き差しされている。それが玉やら竿やらまで一緒に擦ると気持ち良くてゾクゾクする。  初めては痛いとか大変とか言われていたから覚悟していたのに、これはひたすら気持ちいい。  それに、後ろから覆うように抱き込まれるのが安心する。ぎゅっと抱きしめられている感じが好きなんだ。 「はぁ、あっ、あぁ……これ、出っっ!」 「いいぜ、我慢するな。俺もそろそろ我慢の限界だしな」  熱くて荒い息が首の後ろに掛かる。大きな手が二人分の昂ぶりを握り、先端を擦り合わせていく。目の前がチカチカして高い声が掠れて出て、背がしなって涙が溢れた。  その背に、ステンは沢山キスをする。肩甲骨や項、肋の縁や腰骨の辺りまで。愛してるってその数だけ言われている気がするのは、気のせいか? イキそうでバカになった頭が思わせているだけか?  振り向いたトビーを見て、甘く甘く笑って唇に。それが最後の引き金で、上で繋がったまま二人は同じく上り詰めた。  出せばすっきりのお一人様と違って余韻が深い。まだ触れている二人分の熱が冷めていかに。何度となく体を捻ったままキスをして、ゆっくりそれが短く触れるだけになって。最後は背中から強く抱きしめられた。  風呂の意味はなんだったんだ? と言いたくなるくらい二人とも汗だくだ。本来なら気持ち悪い。なのに今はこのままでも気にならないくらいの疲労感と多幸感で笑っていた。 「トビー」 「ん?」 「俺と結婚する気になったか?」 「ばーか、気が早すぎるだろ」  もう少しゆっくり、恋人時間を楽しもうぜ。
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