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◇◆◇
カミーユ……
そう、呼ぶ声が聞こえる。子供の……懐かしい声。記憶に残っている声の主はもっと快活で、声ももっと明るい。
カミーユ……
呼ばれると、苦しくなる。抑揚のない響きは責めているのか、呪っているのかも分からない。
カミーユ……
じゃあ、どうすればよかったんだ。あの時、あの場所で、何をするのが正解だったんだ。教えてくれよトビー、俺はどうしたら良かったんだよ。
◇◆◇
目覚めは最悪だった。酷く怠くて、痛くて、世界が歪んで見えている気がする。
「トビー!」
「!」
飛び込んできた男らしい顔が心配を隠さず覗き込んでくる。それを見上げて、まだ生きてるなって実感した。
「大丈夫か? 熱がまだ高いんだ、寝てろ」
「あぁ、みたいだ……足は上手くいったか?」
大分痛むが、感覚が消えたわけではない。真新しい布が巻かれてある。
「とりあえずはな。熱が引けて痛みが和らげばなんでもないだろう」
「だな。あの時の姉さんは、お前の?」
「あぁ、姉だ。この島で唯一、処置ができる人でもある。ほらこれ、解熱の薬だ。あとはこっちの傷薬と日に三度、傷を綺麗な水で洗ってからつければいいらしい」
解熱薬だと言われて持ってこられたのは帝国でも見た事のある薬だ。傷薬も同じくだ。
「いいのかよ、これ貴重なんじゃ」
「今は怪我人も風邪っぴきもいないから平気だ」
ニッと笑ったステンが起き上がらせてくれて、薬を飲ませてくれる。そして飯だと言って魚の鍋をくれた。アラで出汁を取って、少ない野菜を入れて、魚の身もプリプリしている。味の調整は塩だけだ。
「うまいな」
「だろ? 俺が釣ってきた」
「マジか! 天才」
「よせやい、照れるぜ」
なんて言って笑って、美味しく全てを胃に収めると少し落ち着く。薬が効いてきたのか体が楽だ。
「とりあえず、その傷が癒えるまではここにいろよ」
「あぁ、だな。世話になる。なんか俺に出来る事あるか?」
「気にすんな! 怪我人なんだから大人しくしとけよ」
そう言う男を頼もしく思い、トビーは笑う。だが何かを返したいとやはり思い、そのうちにまた眠ってしまった。
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