猫、拾ってくれ

1/1
前へ
/3ページ
次へ

猫、拾ってくれ

──20XX年。 とても暑い日だった。 いわゆる初夏。 ちらほらブレザーの子はいるが制服は夏服にシフトしている子が多くなってくる季節。 そしてこの男、レンタは脇汗を気にしていた。 「なぁ!ユメ!見てくれこれ」 大きな声で叫ぶ少年の名前はレンタ。 日本で1番多い苗字である佐藤のウジを賜った少年だ。 しかし世界でいちばん暑苦しい佐藤であろう。 「汚いもん見せるな。あっちいって」 脇汗を見せつけられる少女はクールにあしらってスマホを触る。 彼女の名前はユメカ。 割と多めな苗字である大城の氏を賜った少女だ。 東京の新宿に住む彼らは今は高校2年生。 中弛みの学年と揶揄される彼らの天敵は酷暑。 夏バテや虚心を伴う最悪の悪条件。 対抗しうるはエアコン。 ソフトクリーム。 しかしソフトクリームは嫌いだ。 「シーブリーズ付けても意味無いってどゆこと?」 「それだけ代謝がいいの。運動ばっかして汗流してる証拠じゃん。別に臭くないから気にしなくて良くない?」 「そーゆーもん?」 「ウン」 謎の暴論に納得してしまった彼は輝かしい目を彼女に向けた。 そう、話題に飽きて新しい何かを閃いた時の少年の瞳だ。 「今日の公園楽しみだな!」 「あーはいはい。」 「早く行こーぜ!」 「暑苦しい~。でっかい声出さないでや」 放課後、彼の部屋で彼の家であるが彼には声を出す権利は制限される。 なぜなら幸福追求権というものが存在するからだ。 あるいは彼の声は雑音と認識されているから環境権に触法するのだろうか。 「スイが猫見つけただけでしょ?サッカーしに行くわけじゃないんだからはしゃぐことでも無いでしょ」 「ユメはわかってねぇなぁ~。刺激のない毎日なんかつまんねぇしイベント盛りだくさんなお前らの周りにいると毎日楽しくて仕方ね──」 「はいはーい。行くよー」 「ちょ、待てよー」 ──── ──── ──── ──── 「あれぇ、確かにここにいたはずなのに」 彼らは4人揃って公園にいた。 ユメカが言ったスイ、すなわちヒスイが言い出した猫発見の救助クエスト。 彼女は昨日見つけたダンボールを探していた。 隣に突っ立っているつまらなそうな顔をしている少年はユーガ。 「ユーガ!もっとテンション上げてこーぜ」 「耳元でうるせぇお前」 案の定怒られる。 「スイ、いないの?」 「ウン……おかしい、ここにいたはずなのに……あれ?」 ユメカは2人の言い争い? 一方的なディベートか。 を放置してヒスイに動向を尋ねる。 答えは見つからない、はずだった。 「いた!」 ヒスイが指さす場所は茂みの中。 古いダンボールに破れた布切れ。 泥が付着した汚らしい子猫が1匹いた。 ヒスイは抱き抱えると愛でた。 「昨日放置しちゃってごめんね。今日は連れて帰るから」 3人は猫に夢中だった。 しかし、1人の視線はダンボールに向けられていた。 「……なんだ、この青い箱」 ダンボールに入っている小さな青い箱。 「どうした?」 「いや、なんでも」 珍しいほど落ち着いたレンタの言葉にユーガは疑問を覚える。 夕焼け空が美しい。 とはこのことを言うのだろうか。 今日は不思議な日だった。 汚い猫に綺麗な青い箱。 結局彼は青い箱を持ち帰った。 好奇心旺盛な彼が箱をいじらないはずがない。 ふと、 『ねぇレン?猫知らない?』 ヒスイからLINEが届いた。 しかも即返信しなければいけないパターンの文言。 お預けとなった目の前の探究心にいらだちを覚える。 『いないの?』 『ウン。そっち行ってない?』 『居たら伝える。探してくる』 『お願い、よろしくね』 ようやく触れる。 ようやく触れる。 とりあえずこれを開けてみてからでもいいか。 脳裏には好奇心で満たされた青い箱が占めている。 「え、………は?」 青い箱を開けて興ざめした。 なんと、カラ。 見た目だけのスカだったのだ。 萎えた彼はその箱をゴミ箱に捨てる。 捨てようとした。 しかし、イベントが発生した。 「はっ!?!?!?」 箱から眩い光が溢れ出る。 一瞬にして彼の部屋は青い光に包まれて目の前にあるベッドや机が霞んで見えなくなる。 「眩しい!!!!」 「……光…止んだ?」 あまりの輝きにまだ目が冴えない。 しかし何かが変だ。 光が止んだかと思えばあぐらをかいていた足に違和感。 まるで地面に座っているような。 そして部屋のはずなのに風を感じる。 徐々に視界がはっきりしてくる。 いや、おかしい。 気絶して夢の中なのだろうか。 そうでなければさっきまで部屋にいたのに丘にいる説明がつかない。 「は!?どこ!どゆこと!?異世界転生的な?」 理解ができない。 靴も履いてないから靴下だけでほぼ素足。 立ち上がると足の裏が痛い。 「まじで意味わかんねぇって、なんだよこれ」 「お前……」 その声に聞き覚えがあった。 あたふたしていると後ろから声がした。 まるで自分と同じ顔をした、自分と同じ声の少年が。 そして理解した、あの箱を開けたことによって、元いた世界でないどこかに飛ばされてしまったことに。 アオハル東京─100万年の紀行文 始
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加