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学校帰りに田んぼの畦道で、揺れる緑の稲を見ていたら俺は急に泣けてきた。
「霖太?」
緑郎が驚いて俺を見た。俺は湧き上がってくる感情に任せて、しゃくりあげるように泣き出してしまった。
「ろく、緑郎、お前、本家に行くつもり、だろう」
泣きじゃくりながら俺は言った。
緑郎は俺を見つめていた。
俺は続けた。
「俺、は、お前に、なりたい。そしたら、お前の見えてるもの、わかるようになるし、お前が怖がってるものもわかる。堅苦しい本家にだって、行かなくて済むだろ、う」
「霖太…」
「はっきり言ってやる、し」
緑郎が泣きじゃくる俺に近づいた。
「霖太は優しいな。俺はそんな霖太になりたいよ」
「お前と同じもの、見たいよ」
「…あんまり見てほしくないかも」
緑郎が苦笑していた。隣りに並んで肩をくっつけてきた。
「本家に行くかどうかはわかんない。大伯父さんとかおっかないしさ。でも、本家のお仕事、ちょっと興味ある」
俺は緑郎を見た。緑郎は笑っている。
「俺ね、まったく同じ虹を見ていなかったとしても、キレイなものを見たっていう同じ気持ちになれたら、それでいいかなって、最近思うんだ」
「同じ、気持ち?」
「うん。霖太はさ、俺が見ているものが見えなくても、俺がそれを見てどう思ったかわかってくれるでしょ。それで俺は安心するの。怖くても怖くない、みたいな」
「怖いんだろ」
「怖いってわかってくれるお前がいる」
緑郎と触れ合っている肩の部分から、じんわり温かさが広がってくるような気がした。俺は涙が引っ込んでいることにも気が付いた。
「やっぱり俺、お前になりたいな」
「えー?俺は霖太になりたいけどな」
俺たちは、互いの肩を押しあった。最初は軽く。でもだんだん強くなって、お互いを弾き飛ばす勢いになると、二人で大笑いした。
それから駆けだして、手をつないで家に帰った。
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