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すでに町の明かりが点き始めた都の夜空には、丸い黄色い十六夜月が浮かんでいた。月明かりに照らされて、雲は灰色になり、幾層にも重なって、紺色の夜雲が浮かんでいる。
「来たか?」
反り橋のたもとの柳木の陰に、橋を通る人を見守って頭中将と忠義は隠れていた。
「まだですね」
もうすぐ夜警が出てくる時間になるが、今夜のひとときで、意中の人を見納めたい気持ちを持っている。気に入らなければ、あちこち、華やぐ女たちにその足で向かうつもりでいるのだ。
「若様、あの方たちは、それらしき女の二人連れが、あの方たちでないですか?」
「どうれ」
頭中将は、柳の木の枝葉が揺れる向こうから、歩いてくる女の二人連れを見て、目の色を変えた。
「ほう、これは噂通りの姫君。美しい。まるで、天女のような」
「確かに、貧しい家に暮らす姫君の、野性的な魅力があるというか」
「あのような姫君は見たことがない。おい、忠義、あの姫を、私の手元に連れてくるぞ」
「どうするのですか?」
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