32人が本棚に入れています
本棚に追加
右大臣邸にて、誤解、頭中将が姦計を巡らすこと、ごちそう
結局来てしまった・・・
(どうしてこうなったの)
断っても強引に車に乗せられ、頭中将に手を掴まれて、ぐいぐいと輿に押し込められた。美香子はそれでも抗ったが、気がついたら車は動き出していた。
「あの」
「いいですから、私の家へ行けば、何でもあります。あなたの見づくろいから、身の回りのものまで、綺麗なものを用意してさしあげましょう」
車内の膝と膝をくっつけ合う身近さで、髪を撫でられたら、もう何も言えなくなった。
夜が深く、辿り着いた場所はくらくて全容は見えなかったけど、大きな檜葺きの建物が見え、切妻の屋根をのせた幅広の門が待ち構え、立派な土の塀が巡り、かなり大きなお屋敷だった。がたごとと車で入っていくと、中は相当に広い。
高級そうな女房にかしずかれて、部屋に通されると、そこは家具、しつらえとも見事に整っている。
「大したことがない我が家だが」
「十分すごいです」
「まあくつろいでくれたまえ。疲れただろう。こちらにおいで」
「あ、あの」
拒否してもどんどん部屋の中に手を引いて通され、綺麗に整えられた畳の上まで座らされた。
「ああ、そうだ。着替えもなく連れて来てしまったのは、申し訳なかったね。おい、少将、彼女らをくつろげるようにしてくれ」
男は近くにいた女房に命じて、美香子の着替えまで用意させた。
(みすぼらしいなりっての、気づかれた?)
旅の衣装みたいな野良仕事着は、彼にどう思われたかは分からない。
美香子はそこまで用意してもらうのは恥ずかしく思ったが、家に来てしまった以上は、断ることも出来ない。
「まあ、立派な家ですわね、姫様、それに、この甘酒、ほんと、美味しいですわねえ」
「ほんとね、何でもあると聞く右大臣家だけど、何でも揃っているわね。我が家となんて違うのかしら」
着替えが済むと、美香子はきっちりと形が整った高麗縁がついた畳の上で、夕餉をおいしくいただき、その後、温かい飲み物まで出されて、ひといき落ち着いた。
木目が見事に出た床や柱、高価そうな足がついた几帳、蒔絵がされた厨子棚は漆の色が濃くて艶光している。
(なんて良い暮らしをしているのだろう)
最初のコメントを投稿しよう!