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落ちぶれ姫、遠い常世の国、文来ること、受領
それから、十年・・・
(とおい常世の国へ、父と母は行ってしまった。出来るなら、二人に文を届けたい)
父も母も流行病で亡くなると、美香子の家はすぐに貧乏に陥った。
(文をもらえる大事な人のところへ行けっていうけどね、母様)
父がわずかながら土地の売り買いで得ていた収入がなくなると、家に入る給与はない。都では、手軽に日用品が手に入らないので、買う資金がなければ、とたんに品不足に陥った。
「姫様、本日のご入用はありますか?」
「なぜ、そのようなことを聞くの?」
「は、米がありませんで」
「では、一日我慢しましょう」
「はい」
家に一人しかいない侍女の松風は忠義に仕えてくれるただ一人の者だ。
美香子と同じ年で、他の家人がいないので、台所から家の切り盛りまで一切の面倒をかけている。同じ年代の女子として迷惑をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。せめて家の主として、我慢強いところを振舞うしない。
「しかし、こまったわねえ、ひと月の米がこれほど早く消えるとは」
簡単に手に入った米も買えず、衣服も汚れたから新しいのに変えようとしても、衣服はとても高価で簡単に手が出せない代物になってしまった。大盤処の米櫃を空けて見て、ため息をつく。
「この前仕入れたばかりとは言え、もとが少なかったですからね。あの近所のおばさん、姫様の見事なお櫛をあげると言いうのに、気に入らないと突き返してきて、本当にものの価値の分からない人でしたよ」
「では、頼み先を変えましょう。心あたりにまた頼んでみるわ。田五郎はいるかしら?」
「あ、姫様、田五郎は、この前、もう家も食べるものがないんで、としばらくお暇を頂きますと里帰りしました」
「そうだった」
裏庭の畑があるから、野菜などは育てられて、何とか飢えずに済んでいるが、古着なので外へ気軽に出てもいけず、人との交流を断り続けたら、近所の交流も途絶えた。客人も、もう訪ねてくる人もいなくなった。
侍女や下男たちも給金が払えないので、謝って家に帰ってもらった。
そのうちに、庭の草がぼうぼうに生える。植木の枝が道を邪魔するまでに野放図に枝を伸ばす。板の壁は取れて、家に穴が開くと、かなり見苦しい家になってしまった。
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