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(困ったわね、あまり長いこといると、右大臣家の親戚縁者から、本当に愛人か側室かと思われて、ほんとうに分けのわからない状況になってしまう)
幸い、最近は、頻繁に来ない。何か、仕事でもあるのだろうか。他に気を取られているようだ。
(もうすぐ都の年中行事でもあるかしら?それとも、何か気になることが出来たのかしら?心配。私何かしたかしら?私に関係するかしら?)
もしや、生け捕った魚を肥やしている最中なのかとも思う。内地では池須に活けた魚を育てて食べるものだ。
どういう気の変わり様かはわからないが、朝廷を取りしきる一家ゆえ、忙しいには違いない。
だが、何も起こらないなら美香子にとって好都合だ。
(どうやって逃げよう?)
誰かに助けを求めようとも、美香子にはつてがない。誰かがもしいても、右大臣家が相手だ。このような大切な接遇を受けて、果たして誰が助けてくれるだろうか。権力者に逆らい、波風立てる勇気のある者が、この都にいるだろうか?妻になれるのならいいじゃないかと言われそうだ。
(あの方なら・・・)
あの方ならと、思った。
ぼんやり美香子が想像している顔だ。痩せていて背が高く、男らしくしていて、誰に対してもき然としている。役人だから正義心を持っている。そして、優しい目つきで美香子を見て、微笑んでいる。想像で会った時には。
(あの方なら、私の窮状を助けてくれる)
そう思うのは願望か、直感か、自分でも分からない。ただ、、唯一思い浮かぶのは、あの人の顔だけだ。 美香子をこの家から救い出してくれるのは、あの・・・
その時だ。
「ひ、姫様」
松風が慌てて室に飛び込んで来た。
「わっ何?」
慌てている人を見たら、自分も慌てるものだ。
「わ、私、先ほど、右大臣家の女房たちに話を聞いて来たのですけど」
松風は美香子が外へ出る手段や機会がないかどうか、右大臣家の女房達に話を探ったりしてくれている。
「受領が」
「受領?」
先ほど考えていたので、美香子はどきりとした。
「受領がこの家に来ています」
「え?」
今まで驚いたことがないくらい驚いた。魂抜けるほど驚くとはこのことをいうのだろう。一瞬何を言われたか分からなかった。
「この家に、なぜ?」
「それが・・・意味が分かりません。ですが、受領は右大臣家の娘の婿になるのだと、この家の女房が言っています」
「・・・え?」
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