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受領の怒りは、天まで届くほど大きい。
あまりに大きくて、美香子は我を失いそうだった。
それは美香子を本気で本当に大事に思っていてくれた証拠だ。
「結婚は、こちらの家から声がかかった。だが、受けたのは、あなたのせいです。あなたがここにいると聞いて、私はあなたが許せなかった。だから、結婚を受けたのです」
美香子は首を振る。なんという怒り。なんという理由。
(わ、私のせい?)
美香子のせいで、結婚を受けたなんて、どれほど美香子はこの人の人生を狂わせたのだろう。
「そのような、なぜ、私のためになど」
「受領を馬鹿にしたあなたが悪いのです。受領だとて、右大臣家の息子ともなれば、地方官の役人ではなくなり、内裏勤めもできるでしょう。受領だとて馬鹿にされない」
「私のためになんか、止めて」
あまりにも怖ろしく、真実をちゃんと見るのも苦しいぐらいだ。
「私のためでもある。こんな機会は、千載一遇の機会もありません。ですが、私は出世のために結婚をするような男ではない。ですが、あなたが私を馬鹿にしたので許せなかった。だから、あなたが憎たらしい。恨む。だから、あなたを許さないために、私は右大臣家の娘と結婚するのです」
美香子は首を振った。
もう聞くに堪えない。
受領がしたことは、どこまでも美香子のためなのだ。右大臣家の婿になるのに、この部屋まで忍んで、美香子に会いにきたのも、ぜんぶ美香子のためだ。
見てなさい。あなたの目の前で、違う女と結婚してやるから。
そう言おうとやって来たのだ。
受領から突きつけられた現実に、美香子は愕然とした。
「違う、あなたは誤解している」
真実を伝えねば、今言わねばと、必死に美香子は言った。
「私はあなたを裏切ってなどいない。私もお金や身分のために、自分を売ったりしてない!」
「聞きたくない」
受領はどこまでも怒っている。何も言っても聞かない。
「結婚式の日、私は来るだろう。右大臣家の亜子様と結婚しに、この家へ」
冷たく受領は背を向けた。
「私は右大臣家の娘と結婚するんだ。君に見せてやる」
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