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(まったく・・・私だけで、どう生き抜けというの?母様、父様)
当時、高貴なお血筋と言えど、権勢から外れると没落する家も多かった。都で生きるにはいろいろ支出が必要だからだ。
万が一、高官である親戚に援助を受けれたらまだマシ。
だが、他人の家を援助していたら、親戚も没落してしまうかもしれず、簡単に援助などしてもらえない。
どうにかして、金持ちの家に嫁いだら万事安泰でないかと思われるかもしれないが、都の金持ちは難しい。
結婚相手の娘の親から資金を受けて、周りに手土産を配ったりして、出世の手はずを整えていくものである。金持ちの者なら、よけいに貧乏家の娘など近寄らない。
地方豪族とか農村の村長、商人など金持そうな者はいるが、彼らも地位や出世、金儲けにこだわり人種であり、欲望の激しい一面がある人らだ。
最後の考えられる方法は、下級官吏の元へ嫁ぐこと。
下級となれば、棒給もわずかだが、安定した暮らしがあるし、一応、身分もある。
没落家の娘としては、それが唯一の生き延び先だ。
(いよいよ、この文の方のもとに嫁ぐべき?)
美香子はやれやれと唯一、使っている南の対の部屋に入った。文箱から、ひとつの文を出す。
父は無位無冠の遊び人と言われたけど、宮腹なので血筋は良い。
それをあてこんで、見栄っ張りな金持ち老人とか、豪族のなにがしから求婚が来る。そのうちの一人の受領という身分の男が、何かと熱心に文を送って来ている。
地方の役所の役人。名は源信と言う。
(地位目当てなら、野心家だろう)
美香子程度、大した野心家でもないが。
(下々に下って農業や商売などをすることを考えると、今は、有難い申し出と思うべき・・・なのかしら?)
美香子は迷う。
(だいたい、落ちぶれ姫の行く先は、受領って相場は決まっているもの。落ちぶれ姫は、受領の妻でもと言うもの・・・)
宮家のお血筋でも、落ちぶれてはやんごとなき一家の結婚は望めないから、そうした結婚は通例ある。そのせいで、受領程度しかない。とも言われるのだ。
落ちぶれると、受領の妻で終わり。関の山。
権勢家でも公卿でも、大臣のお血筋でも、言われる。それぐらい、落ちぶれた姫君は下級官吏に嫁ぐしかなかった。
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