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「今日は、結婚式なのです」
「はい」
「それは知ってましたか?」
「はい」
「だから、今日は私はあなたと結婚をするのです」
「えっ・・・・」
美香子は驚きながら、受領の言う意味を考えた。
「・・・私?」
「はい。 だから、私はあなたのところに忍んで来ました」
受領が結婚しに来たのは、確かにここ。右大臣の娘亜子ではない。美香子だ。
結婚は男が女の元を訪れることから始まる。
この家の娘に結婚しに来て、こちらに寄ったとすると・・・確かに、美香子の元に結婚しに来たと言える。
「わ、わざわざ、私の元に・・・?」
「はい」
受領の言うことが信じられなくて、美香子はぽかんと受領を見た。
「亜子様の所に行くと思いましたか?」
「はい」
「では、驚きですね。ですが、あなたを取り戻したくても、来る日はこの日しかなかったものですから・・・」
照れたように言う受領は、美香子をじっと見たり、顔を赤らめたり、急ににこっとしたりする。
もう怒ってなかった。
美香子が好きだと言ったことをとうに知っている様子だった。それはそうか、美香子は文で書いたのだから。
(文、読んでくれたんだ・・・)
驚いているけれど、恥ずかしさも込み上げてくる。
「花嫁のところに、花婿が三日通って、結婚が成立するでしょう。だから、私はあなたのところに通って来たのです」
「な、何かの間違いではないですか。私は亜子様ではありませんよ?」
「いえ、あなたのいるところに行こうとして、こちらに来たのです。こうして、三日通えば、結婚成立ですね」
受領はそう言って、美香子の手を取った。
(えっええっ・・・本当に、こんなことになるなんて、本当?)
受領は亜子様のところへは行かず、美香子のところに通うという。
結婚相手は美香子だと。
同じ家にいて、違う娘のところに来たのだ。
(嬉しい)
まさか、右大臣の娘も違う娘のところへ行かれるとは思ってなかっただろう。
(偶然かもしれないが、ここにいて、良かったのかも)
本来なら普通に結婚していたかもしれない。だが、ここに来ることで、受領がどれほど本気なのか見せてもらった。
(とはいえ、こんな苦しいのはもうごめんだわ。この人にも悪いことをした)
受領がにこりと微笑む。美香子の体に温かいものが流れる。
これは運命か、偶然か。
良く分からないが、亜子のところへ行かず、美香子のところへ来てくれたのは、すごく嬉しいと言うことだ。
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