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親戚や近隣の人に頼っても迷惑がられたし、広い世界でこのような助けをしてくれるのは、この人しかいない。
(今はとても、この人が有難い)
自分のような埋もれる家の娘に向かってくるところも、ちょっと損なタイプを思わせる。そういうところも何か、悪い人そうではない気がする。
(この人、なのかな?)
文は、親戚に窮状を訴える文を送るようになっても、老人貴族に求婚断わりの文を送るようになっても、いつでも常世の国に辿りつく存在だ。少なくとも、美香子の中では、文は大切な存在だ。
(でも、手紙一つではねえ、これで私の未来が決まっちゃうのかな)
彼の歌や手紙の文面を読むと、悪い人とも思えない。思いやってくれる気持ちは感じるから、この人は本当に美香子を大事に思っていてくれるのかもしれない。けど、この文を頼りにしてなど、なかなか思いきれるものではない。
(私のような者を好き好んでなんて、もしかして、おかしい人でないかしら・・?)
こう落ちぶれてしまっては、美香子も甘い夢も、色恋だののときめきも諦めてしまった。どうしても冷めた目で見てしまうのだ。
(直接会って、確かめられたらいいけど・・)
近江の国にいる方なのだそうだ。都に来るのは、仕事や所用で来る程度だそうで、今まで一度も、美香子は彼に会ったことはない。
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