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「姫様、文が届きましたわ」
「文?また文?」
その日、また届いた文ことに、美香子は変に思った。先ほど出したのに、また文が届いたというのは、なぜだろうか。あと追いででも用事があって、また送って来たのだろうか。
すでに手元の明かりを消して、寝る用意をしていたが、美香子は布団をわきによけて、手紙を開いた。いつもと違って、唐紙で美しい。どことなくひんやりした感じだ。美香子は急いで文を見ることにした。
「明かりをお持ちしましたわ」
すでに夜が更けて、とっぷりと暮れている。家の明かりは美香子の部屋しか点いていない。節約だ、というか、毎日の明かりの油すら、事欠くのだ。妻戸の外にはすぐ、夜の闇が忍び寄っていた。
「別段、何てことないことが書かれてるけど、でも、何やら、君を想うとか、年月の積み重なった思いがどうのとか」
「きゃあ、恋心を語り出したのですか?あの方が、いよいよ、姫様へ語り出したのですか?」
「さあ、筆跡が違う気がするけど、それに、今夜、会いましょうと書いてある」
「え、今夜?それってつまり、今夜?こ、今夜ってこの今夜?えー?」
「ええ」
「いきなり、今夜だなんて、それってつまり、姫様を一目見て、品定めでもするつもり?それとも、勢いあまって、その、何、何か、えー?今夜?それはそれは・・・こちらも用意が、いきなり来て、抱き締められても困りますけど」
「抱きっ、ち、ちがうわよ。いやあね、鴨の大橋で待っているから、そこで会いましょうって。来ない場合は、自分には魅力がなかったと思って諦めますと」
「橋?なぜに、貴族の姫君様を外に連れ出そうなどと?」
「この家に入るのは、危険と思ってでないかしら?正面門からの道は草ボウボウで、家の者でないと、どこから入るか分からないわ」
「確かに、あのボウボウの裏のお勝手口からなど入る高貴な方はいませんわね・・・」
男でも入るのにためらう廃屋と化した家だ。いきなり入ろうとする人間はいまい。それなら、いったん綺麗な河原とかで会うとかのほうが、まともだ。
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