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葬儀を終え、蒼矢はひとり式場へ向かう。
正面最奥に白い棺が見え、その傍らで、学ラン姿の烈が背中を丸めて座り込んでいる。
蒼矢は足を止めて遠くからその光景をしばらく眺める。
そして一度溜飲を下げてから、静かに奥へ足を運ぶ。
この場に及んでも、烈に掛ける言葉は頭に浮かんでこなかった。
迷いを残したままの蒼矢の前に、烈は激情を晒す。
人目もはばからず喚き、泣き、やり場のない悲しみや自分への怒りを拳に込め、地を叩き続ける。
激しく、ひと雫の濁りも無い、真っ直ぐな烈の慟哭。
一番の友人として、誰よりも長く、深く付き合ってきたと思っていた。
ひたすら明るくてポジティブで、ちょっととぼけてて、こっちが心配になるくらい能天気。
いつでも根拠のない自信に満ちて、はちきれそうな笑顔を見せられると何も言えなくなる、幼馴染。
誰よりも、彼を知っていると思っていた。
そんな目の前の彼は、その長い年月の間に見たことがない感情を剥き出しにしていた。
蒼矢は烈の溢れ出す悲嘆をただ受けとめ、震えるその身体をさすることしかできなかった。
結局口を突いて出たものは、当たり障りのない、諭すような言葉だけだった。
彼が欲しいだろう、癒してやれる文句には程遠かった。
俺は、あまりにも"烈"を知らない。
"俺に頼って来い"
そんなことを言える勇気は、俺には無い。
俺は烈に、今まで沢山貰ってきた。
前向きになれる言葉。
心地良い笑顔。
包み込まれるような愛情。
貰ってばかりだった。
俺はこれから烈に、何が出来るんだろう。
蒼矢の胸に、烈の泣きじゃくる嗚咽がいつまでも響いていた。
-終-
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