ありし日の記憶①

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「…これでいいわ。じゃ、行きましょうか!」 「はい」 「はっ! 幼稚園までの経路…」 「きのうお父さんにおねがいして、地図をこぴーしてもらいました」 「! 静矢(シズヤ)さんが出張行く前に!? …んもう、出来た息子ね…!!」 出しかけたスマホをしまい、差し出されたコピー用紙を受け取ると、結子(ユイコ)蒼矢(ソウヤ)を抱きしめた。 いつも通りに見えて、やはりどことなく元気が無い息子の様子を、結子は既に察していた。 引っ越しにより、ようやく慣れ始めた幼稚園を退園し、知らない土地で知らない同級生の待つ園への中途入園。 大人しくやや人見知りの気がある蒼矢が、新しい環境に順応していくには、また少し時間を要するだろう。 「…緊張してる?」 「…すこし」 「そうね、新しい幼稚園だもんね。大丈夫よ、ゆっくり慣れていけばいいんだから。…お友達もまたきっと沢山できるわ」 「はい」 我慢強く、不平不満をほとんど口に出さない”出来た息子”。 だからこそ、なおのこと親が気にして、言葉に出すきっかけを与えなければならない。 …可愛い蒼矢、何があっても私達が守るからね…!! そう内で決意を固めながら抱きしめていると、胸の中で小さな身体が声を漏らした。 「…お母さん、ほんとうに時間がないです」 「!!!」
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