ありし日の記憶①

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蒼矢(ソウヤ)を抱えながら家を飛び出してタクシーを捕まえ、結子(ユイコ)は転園先の幼稚園へ挨拶へ行き、少しだけ見学させてもらい、ランチと買い物を済ませてから帰路につく。 帰りは急いでないからと、目新しい土地の景色を眺めながらふたりでのんびりと歩く。 母子でたわいのない会話を弾ませていると、結子がふと何かに気付いたのか眉を少し寄せた。 「ワイン買い忘れちゃった…折角良いチーズ買ったのに」 結子は振り返る素振りを見せるが、だいぶ自宅に近いところまで歩いてきてしまっていて、今から駅へ戻って買い直すのはだいぶ億劫に感じられ、不満げな表情を浮かべながら息をつく。 「…ビールで我慢するか…」 が、そうぼやいたところで袖が引っぱられ、視線を落とすと蒼矢がこちらを見上げながら斜め前方向を指差していた。 「! …あら」 帰り道はいつの間にか小さな商店街に入っていて、息子の指は立ち並ぶそのひとつの小店を差していた。 正面看板には、大きく”花房酒店”と記されている。 「家のすぐ近くに酒屋さんなんてあるのね。…なんておあつらえ向き」 そうにやりと口角を上げながら呟くと、立ち止まったまま手持無沙汰にしていた蒼矢へにっこりと笑顔を見せる。 「…お酒買いがてら、ご挨拶していきましょう? これからよくお世話になるかもしれないし」 「はい」
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