ありし日の記憶①

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人懐っこい(カイ)があっという間に母たちの会話に入り込んでいく中、彼の腕からぴょいっと飛び降りた少年が、大人たちの傍らで佇む蒼矢(ソウヤ)へ近付いていく。 背格好はそれほど変わりないものの、浅黒の彼は色白肌の蒼矢とは対照的な容姿をしていた。 スモックのそこかしこに土汚れを付け、おそらく中身も対照的だろうと思われる少年は、至近距離から蒼矢を好奇に満ちた瞳で見つめる。 「…おまえ、いまひまか?」 やや緊張を表出しながらも見返す蒼矢へ、少年ははっきりした口調で話しかけた。 「! …」 唐突な問いに、蒼矢は会話の弾む母をちらりと見上げてから、返答に困ったように少し首を傾げた。 同じように大人達を見上げた少年は、蒼矢へと視線を戻すと、にっかりと歯を見せて笑う。 そして蒼矢から瓶ジュースを取ると、彼の手を引いて会計カウンターの方へと連れていった。 「! あ、こら(レツ)!」 「ちょっとあそぶだけだってー」 カウンター奥の上り口から靴を脱いで上がり込んでいく子供たちの後ろ姿に、目ざとく気付いた珠代(タマヨ)が声を投げるが、幼子ふたりは軽い返答と共にあっという間に消えていく。 騒ぎに視線をやる結子(ユイコ)へ、珠代はため息をついてみせた。 「…息子の烈です。すみませんねぇ勝手に…」 「いえ。私ももう少しお話伺いたいですし、それに…」 「?」 言葉を詰まらせる結子の顔を、花房(ハナブサ)夫妻はきょとんと覗き込む。 「引っ越してきたばかりで、蒼矢はまだお友達いないですし、それに…少し奥手で。同い年で同じ幼稚園に通うのなら、息子さんと仲良くなって貰いたいんです。花房さんさえ良ければ…是非」 そう、憂うような表情を浮かべながらぽつぽつと吐露する結子に、快と珠代は目を合わせ、ついでニッと笑った。 「…そりゃもう、お安いご用ですよ! うちのドラ息子で足りるんなら! なぁ?」 「そうですとも! あぁ、でも…大丈夫かねぇ? 蒼矢くんを女の子と取り違えてないといいけど」 「!? えっ…今の子、女の子じゃねぇの!?」 「ほれ見たことか。どうすんのさ、あんたみたいに勘違いしてたら」 「あいや…、烈の奴は遺伝子レベルで理解してると思うぜ? あのとっつきようは、絶対野郎と思って見てる! あいつ、女相手にはてんでだらしねぇんだから。はは、まったく誰に似たんだかなぁ?」 「…さてねぇ。私じゃないことだけは確かだよ」 気さくに応じ、そのまま夫婦漫才し始めた花房夫妻に、結子は安堵し、それから小さく噴き出した。
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