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クラヤミ洞窟に入ったらどうなるのか?チハルちゃんも、お父さんに訊いたという。すると、返ってきた答えが“何が起きるかわからないから駄目”だったという。何でも、あの洞窟はチハルちゃんのお父さんが生まれるずっと前からあるらしい。チハルちゃんのお父さんのおじいちゃん(チハルちゃんにとっては曾祖父ちゃん)に、そういう風に言われていたのだそうな。
それが、却ってチハルちゃんの挑戦心に火をつけてしまったわけだ。
彼女は“何が起きるのかあたしが絶対に確かめてやるんだから!”と決意したらしい。それがたまたま、今日だったというだけで。
「あんまり奥まで行くと本当に危ないかもしれないぞ。今日は特に準備もないし、手前の方だけにしような?」
俺は少し心配になって、チハルちゃんに繰り返しそう言った。なんだかんだで彼女は俺には甘いと知っていたからだ。
「これだから男はビビリでやだねー!あたしのお父さんそっくり!」
「悪かったなビビリで」
これだから男は、はチハルちゃんのお母さんの口癖だった。子は親に似るものであると痛感する。
俺達は神社に辿り着くと、誰もいないことを確認。手を繋いで、二人で洞窟に入って行ったのだった。
そこは不思議な空間だった。スマホで照らしているのに、奥が全然見えないのである。本当に真っ暗な道が緩やかに下っているのだ。少し歩いて、入り口からの光が遠ざかったところで俺はもう充分怖くなってしまっていた。
「こ、これ以上やめよう!そうしよう!」
「何でさ!まだ入り口見えてる距離じゃん!」
「見えてるうちにやめようって言ってんだよ馬鹿!暗すぎ!流石に変!」
ぎゃいぎゃいと大袈裟に騒ぐのには理由があった。だんだん俺も、何かがおかしいと思い始めていたからだ。
洞窟に入って、まだ十メートルも進んではいないはずである。それなのに、周囲が異様に静かなのだ。神社のすぐ隣は大きな通りで、車の往来もそれなりに激しい。神社にいるうちは、鳥の鳴き声や木々の葉擦れに加えて、車の通り過ぎる音がうるさいほど聞こえていたのだ。
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