ちかづくな。

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 ***  俺は無事に、クラヤミ洞窟から生還して帰宅した。チハルちゃんを、完全に見捨ててしまったのだ。そして大学生になる今まで無事に生き延びているのは言うまでもないことなのだが、この話には続きがあるのである。  半狂乱になりながら事情をおじいちゃんに話すと、彼は俺をまったく叱らなかったのだ。そればかりかこう言った。 『クラヤミ洞窟?なんじゃそりゃ?チハルちゃんって誰のことだい?』  そう、祖父も家族もみんな、クラヤミ洞窟のことを忘れていた。それどころかチハルちゃんの存在さえ。  クラヤミ洞窟の化け物が、チハルちゃんと己の存在ごと食らってしまったのか?それでも充分恐ろしいが、実際はそんなレベルの話じゃなかったんだ。  なあ、どうして北海道の信号機は皆縦向きなんだ?  なあ、どうして東京に来て見かけた横向きの信号機、一番左が青なんだ?  なあ、どうしておばあちゃんが生きてるんだ?俺が七歳の時亡くなったはずなのに。しかも、なんでおばあちゃんの顔に見覚えがないんだ?  おかしなことばかり。知ってる人が違う、地名が違う、家族が違う、言葉が違う。  俺はあの洞窟から逃げたようでいて、きっと逃げられてはいなかったんだろう。そして、元いた世界とよく似た別の世界に来てしまったんだ。  頼む、この書き込みを見た人、心当たりがあったら教えてくれ。どうすれば元の世界に帰れるんだ?  少しずつ、元の世界の記憶が消えていく。  俺はそれが、怖くて仕方ないんだ。
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