鬼の里

9/14
前へ
/15ページ
次へ
「え……」 「勝手に争って勝手に衰退してを繰り返しているのが人間ですわ。でも、わたくしたちは一族を何より重んじます。そして、」 「恩人である梅乃様は、もうわたくしたちの『大事な存在』なのですわ」 「……―――」 梅乃は言葉に詰まった。 言葉にならないほどの感情があふれて――泣いてしまった。 それを見て、今度は鬼の女性たちが慌てだした。 「う、梅乃様!」 「だ、大丈夫ですわ! 梅乃様がおいやでしたら人間を襲撃はいたしませんわ!」 「ちがっ、あの、ごめんなさい~」 「梅乃様ぁ~わたくしたちまで泣いてしまいますわ~」 突然号泣しだした梅乃と、周りで困ってしまう鬼の女性たち。 その外側に陣を作っていた鬼たちも、なんだなんだと寄って来る。 「おお、ずいぶん盛り上がって……盛り上がりすぎてない? なにがあったの?」 苑の治療のために遅れてやってきた冬芽は、ふすまを開けるなりびっくりした。 梅乃と周囲の者たちが泣きまくっている。 「おいおいお前たち。歓迎しろとは言ったが、泣かせろとは言っていないぞ」 人波をかき分けて梅乃のもとへたどり着いた冬芽は、梅乃の脇に膝をつく。 「申し訳ありません、冬芽様~」 「あのっ、わたし、が、泣いちゃった、だけで、みなさん悪くないんですっ」 嗚咽しながら言う梅乃の背を、落ち着かせるように軽くたたく冬芽。 「そうか。口に出来ることがあったら、なんでも言ってくれ。俺たちは、あなたに礼がしたい――あなたの役に立ちたいんだ」 「そうですわ、梅乃様」 「なんでも仰ってくださいませ!」 梅乃はまだのどをひくつかせながらも、口を動かした。 「私の周りに、私のためにとか、言ってくれる人も、心配してくれる人も、いたことなくて……わたし、どうでもいい子だったから、みなさんが『大事な存在』って言ってくれたのが……う、嬉しくて、嬉しくて……心がいっぱいになっちゃて……」 手の甲で涙をぬぐう梅乃。 涙は次々あふれてくる。 その涙を見て、冬芽は久方ぶりに優しい気持ちになった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加