嵐が去る

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 軽くシャワーを浴びてココアを飲んだ後、娘たちは車に乗り込んで笑顔で帰って行った。 「嵐が去ったな……」  思わず呟くと妻はくすくすと笑う。 「寂しい?」 「やっと静かになったのに何を言ってるんだ?」 「そう?寂しそうよ?」  言いながらももうあの子たちの車が走り去った道路をいつまでも眺めている妻。  その後ろ姿を見て思わず手を伸ばすと、妻は肩に置いた俺の手に自分の手を重ねて微笑んだ。 「冷えるだろう?」 「そうね、今度はコーヒーでもいれましょうか?」  耳をすましてみてももう孫たちの笑い声も娘の怒鳴り声もしない静かな山の中。  手を取って歩く妻の手がやたら小さく見えて俺はしっかり握り締めた。
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