嵐が去る

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 たまには騒がしい娘一家と共に。  でも、やっぱりこの静かな家で妻と二人で…… 「何か手伝うか?」  聞くと、妻はお湯を沸かしながら戸棚を見る。 「これか?」  マグカップを出すと妻はくすくすと笑い出した。 「何だ?」 「コーヒーカップじゃなくてちゃんとマグカップを出したでしょう?」 「だって、これだろう?」  二つのマグカップを持って妻を見ると、妻は火を止めて振り返る。 「ここに来る前はそんなことも知らなかったでしょう?そもそも台所にお父さんはほとんど入って来なかった」  言われて考えるまでもなく、その通り過ぎて何も言えない。 「こんな山の中。何もないし無理だと思ったわ」  妻がコポコポとお湯を回しながら注ぐと、フィルターを通って少しずつコーヒーができていく。 「でも、あなたが居るものね」  コーヒーの香りにホッとしつつ、妻の言葉に顔が緩んだ。 「あぁ……傍に居てくれ」  照れくさくてそっぽを向きながらぽつりと言うと、妻は俺の背中に優し過ぎる拳をぶつける。  この穏やかな暮らしを(きみ)と……
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