紺碧の中で

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 シィーボコボコボコ…………  呼吸音だけが聞こえる静かな空間。透明度が高く、泣きたくなるような美しい青。  川谷(かわたに)歩美(あゆみ)は海面を見上げる。  差し込む太陽の光に泳いでいる銀色の小魚がキラキラ輝き、水面が揺れる。  自分の吐いた息が水中で無数の泡となり、真っ直ぐに上っていくのを、歩美は海底に膝をつき、ただぼんやりと見ていた。ふと水深が気になり、左手首に巻いているダイブコンピューターをチラリと見る。 (水深11メートルってところか……)  シィーボコボコボコ…………  この無音の世界に身体の内側から呼吸の音が響く。息が海中で形を作り、上昇していく生きている証に苦しさを感じる。 (ああ……)  歩美は、自ら命を絶った木村(きむら)陽菜(はるな)の事を思っていた。  忘れた事など一度たりともない。  誰かに肩を叩かれ、ビクリと身体を震わせる。  歩美が振り向くと、先日、夫となった川谷雅史(かわたにまさし)が人差し指を伸ばし、あっちへ行こうとジェスチャーをしていた。  歩美はコクンと頷き、フィンを上下に動かす。少し砂が舞ったが、スーっと滑るように2人は手を繋ぎながら、海中を泳いだ。
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