紺碧の中で

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(どこに行ってたの?)  岩の陰から戻ってきた雅史に気がつき、身振り手振りで文句を伝えたが、雅史はただ笑っていた。  歩美といつも一緒に潜るダイバー仲間、山上渚(やまうえなぎさ)木村光彦(きむらみつひこ)が歩美の前に現れ、1メートルほどの白いビニールを雅史と歩美の目の前に広げた。  山上渚は歩美の高校から親友であり、木村光彦は雅史の幼馴染だ。 『雅史、歩美、結婚おめでとう!!』  ビニールには大きく祝福の文字が記されており、周りには冷やかしの言葉が沢山書かれていた。  歩美が雅史を見ると、ダイビングマスクの奥にある目が優しく笑う。  雅史は浮力調整装置であるBCDのポケットから、プラチナの指輪を取り出した。  歩美の左手のグローブを外し、山上渚に預ける。  必死に薬指に指輪をつけようとするが、潮の流れがあり、身体がゆらゆらと安定せず、何度も失敗する。  ゴボッ、ゴボッ、ゴボッ  思わず笑ってしまった歩美の息が、口にくわえているレギュレーターから勢いよく漏れる。  何度目かでやっと薬指に入り、歩美は指輪を見つめていた。  山上渚が歩美の肩を抱き、水中ノートに『やる?』と書き込んだ。  歩美は頷き、渚も光彦も目と目を合わせ頷く。 『サプライズだよ。驚いた?』  雅史が水中ノートに鉛筆を走らせ、歩美は雅史の目を覗き込む。 『驚いたわ。私からもサプライズがあるの。目をつむって?』  ノートの文字を読み、嬉しそうに雅史は目をつむった。
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