序章

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序章

 ――執事たるもの。  己の品格が主人の品格とみなされることを心得よ。  主人以上の教養を持ち、決してひけらかさず、  常に謙虚で、しかし卑屈になることなく、  己を下げることなく主人を上げ、  己を律し規則に従い、けれど物事には柔軟に対応して、  いかなる時も私情を抑え、人の心の機微を察知し寄り添いなさい。    そう教えを説いて二年間。  あなたがたはよく学び、ただの平民の子供が立派な紳士となりました。  倍率一四七倍の狭き門を突破し、二〇〇名で迎えた入学式。  数多課された試験を通過し、三年への進級を許されたのは、ここにいる一一八名だけ。この人数は例年に比べても格段に多く、(おおとり)校長先生も、あなたたち学年の優秀さにお喜びです。  春休みが明けた四月からは、いっさいの授業と試験がなくなります。あなたたちに求められるのは、帝王科の皆様――マスター――へのご奉仕のみ。このご奉仕に専念する一年間が、あなたたちの一生を左右するのです。  翌年三月に迎える花摘会(はなつみかい)で、八三名おられるマスターは、己が生涯召し抱える執事を選ばれます。花摘の契約は尊く、決して破られることのないもの。  マスターは一年間の交流を通じ、あなたたちの振る舞い、教養、気品、心根、そして相性を見定めるのです。  皆すでに承知しているでしょうが、指名されなかった者は、卒業と共にこの鷹鷲(おおとり)高校を離れ、平民の暮らしに戻ることになります。  日々を心して過ごしなさい。  どうか、あなたたちが良き主人に巡り逢えますように。
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