◆四月の章◆ 入学式

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◆四月の章◆ 入学式

 四月二日。  遅咲きだった桜も満開を過ぎ、晴天の下にちらちらと花びらを降らせている。  土地不足が叫ばれる東京都内にありながら、広大な敷地を持つ東京鷹鷲高校。  青銅でできた、薔薇の意匠が施された正門前のロータリーには、いま、リムジンが列をなしていた。  守衛たちは正面についたリムジンから順々に、ドアを恭しく開けていく。そこから降りてくるのは年若い学生たち。彼らは一様に緊張した面持ちをしながら、背筋を伸ばして門をくぐる。  今日は鷹鷲高校の入学式。彼らは今年の新入生だ。新入生たちが着ているのは礼服ではあるものの、各々の私服である。  門をくぐった両脇に立っているのは、鷹鷲高校の制服を身にまとった三年生だ。片や男子学生で、片や女子学生である。その、門から見て右手側に立つ男の名を、七森明彦(ななもりあきひこ)という。  彼は生まれながらに恵まれた体格をしており、身長は先日一九〇センチに届いた。がっしりとした体型に加えて、脱色したわけでもなく明るい栗色の髪をしているが、柔和な表情のおかげで威圧感がなかった。  鷹鷲高校の制服は、ピンストライプの入った白のブレザーに、気品を感じるくすんだ金のタイとベストをあわせる。着こなしが難しいデザインだが、手足の長い明彦にはよく似合っていた。彼自身は日本生まれの日本育ちだが、その顔立ちからは、西洋の血を色濃く感じる。  明彦は真紅の薔薇でつくられたコサージュを手に、門をくぐってやってきた新入生へと近づいた。 「入学おめでとう」  低く心地よく響く声で祝辞を述べながら、その胸にコサージュをつけてやる。 「ありがとうございます」  新入生は短く礼を言って、緊張が混じる晴れやかな表情で校舎の方へと歩いていく。  しかし校舎と一口に言っても、鷹鷲高校の校舎は一般的な学校のものとは様相が完全に異なる。石積みで作られた外壁が重厚感を醸し出し、その壁の上には鋸状の狭間であるツィンネまでが見られ、所々には円柱状の塔が建つ。「西洋のお城」と言って思い浮かぶ姿の、理想形のような佇まいをしていた。  門から校舎までは、桜の花びらが絨毯のように彩る石畳が続く。その石畳を真っ直ぐに辿っていくと、左右に広がるイングリッシュガーデンを抜け、校舎の中央に設けられた巨大な扉が開かれているのが見えるだろう。そこが、校舎中央に位置する、大広間へと入るためのエントランスだ。  桜吹雪の中を歩く新入生の姿が眩く感じられて、明彦は視線を奪われる。
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