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ユキの叫び声にリビングを覗く。姿は見えない。
「……ユキ?」
「きてきて!」
キッチンの端の壁からひょっこり顔を出して、ユキはボウルを指さし手招きをする。ベランダ用のスリッパを脱いで上がれば、ボウルの中には卵がふたつ入っている。
「これが、なに?」
「もうニブチンだな、双子だよ双子!」
ああ、と納得した。妙に黄身がくっついているなと思った。
「すごくない? ねね、すごくない?」
「初めてみたわ」
「そうなの、すごいよね」
ユキは興奮して語彙力が落ちている。
「崩しちゃうのもったいないからさ、やっぱカルボナーラやめてスゴモリにしない?」
「いいね、ユキにまかせるよ」
「やった!」
音符が出るように菜箸を振って、ユキはキャベツを野菜室から取り出し再びまな板へ向う。ベランダへ戻り洗濯を続けながら様子をうかがうと、後ろ姿でもご機嫌なのが伝わってきた。
ジューッと卵が焼け、さっと蓋をされて音がしぼむ。ユキは不器用そうだけど慣れれば手際がいいから、料理はもう任せられそうだ。最後のタオルを洗濯ばさみで留めて首だけ振り返ると、鍋から湯気が沸いている。そろそろできあがる頃だろうか。
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