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「そう。お兄さんの存在を認めるのね」
中条さんは柔らかな笑みを口端に浮かべる。その口調は、いつもよりもほんの少し、柔らかい気がした。
「はい。僕は一度だって、兄を恥ずかしいと思ったことはないと思っていました。ただ、兄の存在を知った皆の反応が変化することが嫌だった。恐ろしかった。それを跳ね返すだけの強さが、僕にはなかったんです。きっと、それはどこかで兄の仕事を恥ずかしいものだとか、公にはしてはいけないんだとか、バレたらハブられる……とか、なんか、色々な思い込みがあったからだと思います」
僕は自分を情けなく思い、苦笑いまじりに話す。
「世の中は偏見の目ばかりよ。お客様の求めているモノを瞬時に見抜き、ソレを提供していくということは、口で表現するほど簡単なものじゃない。
人の本質を見抜く目を養い、ソレを提供していけるスキルを磨き、臨機応変に対応出来る場数も踏んでこなければ、お客様一人をも満足させることなど出来ない。どの仕事も、上位に立つことは並大抵なことじゃないわ。
美月のことをそんなに想像できるのなら、お兄さんのことも少し想像してみれば理解できるでしょ?
これから先、お兄さんがどんなに偏見の目を向けられたとしても、君だけはお兄さんの見方でいてあげることね」
「はい!」
僕は中条さんの言葉に、力強く頷いた。
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