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プロローグ
深夜一二時――。
真夜中の月光に照らされたプールから上がった少女は、こちらに顔を向ける。
胸下辺りまで伸ばされた痛みのない髪は、一瞬で目を引く水晶に近いアクアマリン色をしている。今は水で濡れて靡くことはないが、とてもサラサラしていそうで、風に弄ばれてしまいそうだ。
アクアマリン色の瞳が妖精の涙のようで、この世の悪を知らないように純粋で美しい。地上の世界を知った者がその瞳に見つめられると、否応なしに心が締め付けられ、視線を外すことができなくなってしまうだろう。傷一つないきめ細やかな肌は雪のように白い。
今にも消えてしまいそうなほどに儚い姿は、まるで絵本などにでてくる妖精のようだ。とても神秘的かつ幻想的な印象を与える少女は、この世の者とは思えないほどに美しかった。
「ぁ、えっと……」
僕は上手く言葉を紡げず、視線を右往左往にさ迷わせることしかできない。
少女はパクパクと口元を動かす。何かを言っているようだが聞き取れない。否、音が一音も聞こえてこないのだ。
「君、もしかして……ッ」
声が出ないの? と言う言葉を慌てて吞み込んだ。出会って間もないのにそんなことを問いかけるのは失礼だと感じたからだ。
少女は悲しそうに目を細め、微苦笑を浮かべる。
刹那、少女は膝から崩れ落ちた。
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