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――ストロベリーローズ――
「イチゴ……毎日、いちご……苺が憎い……」
真雪の隣でペティナイフを手にパティシエ見習いの沙耶乃が呟いた。
「呪うな、呪うな」
苦笑しながらスライスした苺を小さな薔薇の形に整えて、真っ白な生クリームに包まれたガトーフレーズに乗せ完成させる。
「ハロウィンが終わればクリスマス、お正月が終われば成人式に〝イチゴの日〟!」
「それだけお祝いでケーキを食べて、幸せと思ってくれる人が大勢いてくれるって事だろ。このご時世に好きな仕事が出来きて幸せな人も増えるのは有り難いな」
そうしてまた次の深紅な果実に手を伸ばす。
「そうなんですよ! その通りだから手抜きが出来ない! うぅ~この子たちいっそ自分で薔薇の形になってくれないかな?」
「そこはオレたちの腕の見せ所って事で」
ここは小さな町の片隅に昔から在る『たまい洋菓子店』。ショーケース内の華やかなケーキの他にも、焼き菓子やコンフィチュールなども店内の木製棚には並ぶ。
真雪の父が開いた店は、二年前に真雪がパティシエとして加わってからSNSで流れてくるようなフェアを取り入れると、幅広い年齢のお客様が訪れてくれるようになり、地元ではちょっとした有名店となった。
ただ父も真雪も店を大きくするつもりは無く、自分たちが作れて、毎日売り切れる量を大切に作る事を心がけている。生菓子が売り切れた時点でお店は閉店。季節イベントの際にはそれなりの量を用意をすることもするけれど、無茶な増産はしないと互いの意見は一致している。
そんな今の時期はたった今ふたりで格闘している苺フェア開催中。いつもよりも色々なケーキや焼き菓子に様々な苺を使っている。
あっという間に苺の薔薇を量産していく真雪の手元を覗き込んだ沙耶乃は「はぁ~」と溜息をついた。
「苺に触れる手つきが優しいからなんだよなぁ。真雪さんの薔薇はやっぱり美しい……よし、私も真雪さんの美しい薔薇目指して愛情込めよう」
「はい、よろしく」
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