プロローグ

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プロローグ

簡素な使用人棟の一部屋。 鏡には、気弱な表情の少女が映っている。 すみれ色をした瞳に、白い顔。 くせのあるダーク・ブラウンの髪は、えりあしまで伸びている。 豊満とは言えない裸の胸。 「もしかして私……あの人のこと好きなのかなあ」 ぽつりと胸の中でつぶやく。 それからぶるぶると首を振って、自分の言葉を否定する。 「ありえないよね、そんなこと」 彼女はサラシを取り出して、裸の胸に当てた。 左手でサラシの端を持ち、右手で背中側から回しながら、乳房を押しつぶすようにして巻いていく。 こうしてサラシを巻く時は、いつも知らず息が止まっている。 巻き切ると、あっさりとした麻のチュニックを頭からかぶった。 ズボンを履いて、腰ひもを結び、ベストを着る。 もう一度鏡に向かい、全身をチェックして、表情を引き締める。 「私は、リオ」 彼女は自分に言い聞かせる。 あの日。 髪を切った時に、本当の名前を捨てた。 リオとして……、男の子として、このイリリアで生きていくと決めたのだ。 リオは、自分の両方の頬を、軽く叩いて気合を入れる。 「さあてと。お仕事、お仕事」 まずは、ねぼすけの主を起こしにいかなくてはならない。 リオは扉を勢いよく開けると、広い廊下に飛び出した。
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