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イリリアの浜辺
目が覚めると、浜辺にいた。
太陽が東の空で輝いている。
ヴィオラは顔をしかめて身を起こした。
体のあちこちが殴られたように痛い。
腰まであるダーク・ブラウンの髪は、水気を含んで、首筋にまとわりついている。
その髪を払って、ヴィオラはあたりを見渡した。
サラサラとした白い砂。
打ち寄せる波の音。
潮のかおり。
朝の海は穏やかで、陽光を受けてきらめいている。
「お父さん、お母さん……?」
ヴィオラは、かすれた声で叫んだ。
「バズ……! みんな、どこにいるの?」
返事はない。
ひどく喉がかわいていた。
頭の中がぼんやりする。
ヴィオラは目を細めて、水平線の彼方を見やった。
……どうしてここにいるのだっけ。
耳の奥で、雷鳴がかすかに鳴った。
そうだ、昨夜は嵐だったんだ。
徐々に記憶が戻ってくる。
激しい雨と風、荒れ狂う暗い海。
荒波のはざまに、おもちゃのような小船が一艘、揺れている。
その小船の中で、ヴィオラは小さくなって震えていた。
兄のバズが、切羽詰まった声で叫ぶ。
「ちくしょう、水が入ってきやがった!」
ヴィオラも叫んだ。
「どうしよう、バズ。どうしたらいいの?」
「できるだけ水をかきだすんだ! ほら、ヴィオラも早く来て!」
とたんに、視界が回転した。
小船が、海原に投げ出されたのだ。
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