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ひとりで小道を歩いていく。
土の色は、郷土よりも赤っぽい。
牛二頭がようやくすれ違えるほどの広さで、くねくねと曲がりくねっている。
その道の端で、数人の男たちが座りこんでビールを飲んでいる。
傍らの籠の中には、ニシンやタラなどの魚が放り込まれている。
きっと漁師たちなのだろう。皆、一様に潮焼けしている。
その中のひとりと目があって、ヴィオラは、おずおずと声をかけた。
「あの、ここはなんという町でしょう?」
「ここは、イリリアだよ」
「イリリア……」
聞いたことのない地名だった。
「すみませんが、お水を一杯いただけませんか」
ヴィオラは思い切ってそう言った。ひどく喉が渇いていたのだ。
男たちは、ヴィオラの恰好を上から下まで眺めると、口々に言った。
「なんだ、物乞いか」
「水なんてないよ」
物乞い、と言われた恥ずかしさに、ヴィオラは赤くなってうつむいた。
「わけありみたいだね、紫の瞳のお嬢さん」
漁師の一人が言った。
「ここから南東に1マイルも行けば、教会がある。
ほら、向こうに鐘撞が見えるだろう?
シスターに言えば助けてもらえるだろうさ。水だってもらえるはずだ」
「ありがとうございます」
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