イリリア救貧院

4/11
前へ
/111ページ
次へ
ヴィオラはもの珍しさに、あたりをキョロキョロ見渡した。 とはいえ、見物に来たわけではない。 「きれいなお花はいかがですか?」 ヴィオラが声を張り上げたとき、後ろから人がぶつかってきた。 籠から花が、ふわりとこぼれ落ちる。 あわてて拾おうとしたが、通行人に花を踏みつぶされてしまった。 「ああっ」 「失礼シマシタ」 ヴィオラは顔をあげた。 花を踏んだのは、どうやら異国から来た人のようだ。 頭にターバンを巻いて、浅黒い肌にくちひげを生やしている。 「すまなかったネ。花売りのお嬢サン。 売り物をだいなしにシマシタ。落とした分は買い取らせてもらいマス」 「え、でも」 ヴィオラは戸惑った。 「いいんでしょうか」 「もちろんデス」 買ってもらえるなら助かる、と思う。 「じゃあ……お言葉に甘えさせてもらいます」 ヴィオラがそう言うと、彼は思いのほか多くのお金を払ってくれた。 「こんなにいいんですか?」 彼は、ニッコリしてうなずいた。 「君の瞳は、光の加減で紫色に見えるんデスネ。 とてもきれい。珍しいデス」 「ありがとうございます。よく瞳だけは褒められるんです」
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加