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「瞳だけではないデスヨ。君はとてもチャーミング。
それにまだ若いデスネ」
「はあ……」
ヴィオラは照れて微笑した。
客観的に見て、自分の外見がとくに優れているわけではない、とヴィオラは思う。
それでも褒められれば悪い気はしない。
「花売りのお仕事、大変ネ。儲かるカ?」
「儲かるかは分かりません。実は私、救貧院でお世話になっていて」
「何か事情がありそうデスネ」
船が難破して、家族を探していることを話すと、「なんとアワレな」と、男はヴィオラの手を握ってきた。
「君はどこから来たんデスカ」
「リージというところです」
「リージ。なんという巡りあわせデショウ。
実は私も、今から船に乗るところだったんデスヨ。リージ行きのネ!」
ヴィオラは目を見張った。
故郷の名前を聞くと、胸に懐かしさが押し寄せてくる。
緑の牧草地と、いつも遠くに見えていた雪の残る山並み。
小さい頃に、転げまわって遊んだキンポウゲの咲いた黄色い丘。
ヴィオラたち一家が船に乗り込むとき、いつまでも手をふってくれた親戚や友達……。
「君は故郷に帰りたいんデスネ」
同情するように、男が言った。
「リージ行きの便は、ひと月に一回もない。
それに通行料が、とってもとってもかかります……」
「そんな……」
「だけど、ダイジョウブ!
どうしてもというなら、今なら僕が船長に口をきいてあげマスヨ。花をだめにしてしまったお詫びデス」
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