サルビア

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「それでどうなってるのよ」 「どうって」 「だから、あの反社っぽいお兄さんのことよ」 「サキのトラくんも勤め先同じだけど」 「トラくんは良いのよ愛してるから」 「あ、自分がよければ良いのね」  葉も落ち切り寂しくなった枝を見つめながら、いつもの窓際の席を陣取る2人がいた。  ピンクベージュの髪が特徴的なリツと、最近髪色を大人しくしたことが話題に上がるサキ。この2人の並びもよく利用する学生や教員たちには見慣れた光景で、今日も仲が良いなぁと思われながら過ぎ去っていく。余談ではあるが、この中の3割くらいは、この2人が付き合っていると信じて疑っていない層も存在することを本人たちだけが知らない。 「どうもこうも、同じだよ」 「週1で会って、買い物して、ご飯食べて?」  そう、と返してそっかー、と相槌するサキだが、当然その後ただ解散したとは思っていない。リツが絶対に嫌がるのでちらっとも聞いていないが、まあ、次の日の親友の顔色からしてホテルにも連れ込まれていることだろう。  親友とはいえリツの少々複雑な性事情を無神経に聞くつもりもないが、もし無理強いされているようなら考えなければなと、癖で鞄の底を探る。 「好きって言われてるんでしょ?」 「さあ…言われるだけだね」  この話題になるといつも怒るリツは、またそんなことを言う。言葉としては聞こえているけど響いてないと言いたいらしい。サキは1度しか会っていないが、その1度だけでもどれほど自分がリツにぞっこんかアピールしているようにしか見えなかった。当の本人はそう受け取っていないらしいが。  ならいいのでは?とサキは思う  カチカチと、常に携帯している鞄のそれを弄る。刃を少し出しては戻し、出しては戻しを繰り返しながら思考する。相手は痩せ型とはいえ180cm越え。小柄な自分にはそれだけでも大きなハンデだ。加えてあのトラくんが慕っているくらいだし、見た目より腕っ節もあるかもしれない。やはり最初は足を狙うべきかなどと、自販機で買った甘いコーヒーを味わいながら考える。 「じゃーいつ別れても問題ないんだ」 「付き合ってない。早いところ飽きてくれることを願ってるよ」  何で自分から別れられないのか。もしや暴力まで振るわれているのでは?恐喝?そう思った瞬間、剥き出しの刃が財布に当たった感触がしてやべ、と口から漏れる。 「どうしたの?」 「なんでもー。あ、今度トラくんにそれとなく聞いてみるよ。なんかこう、お兄さんが萎えそうなこと」 「いいよ別に。気にせず仲良くしてな。また妙な誤解生むのも嫌でしょ?」  それはそうだが、それは2人の愛のパワーで乗り越えるので問題ない。問題なのはリツだ。嫌なことははっきり言ってしまえるタイプではあるが流されやすい。あと自分に好意を向けてくるタイプに弱い。自分もそうだったのでこれは実体験だ。親友、悪く言えばちょっとちょろくて心配になってしまう。 「それよりさ。サキは年末どうしてる?」 「ん?んー、普通に家で掃除して年末年始まったり過ごすけど、何?リツは実家帰るんでしょ?」 「んー」  気のない返事に帰りたくないのか、とすぐ察することは出来たものの声には出さない。なんなら実家に帰った方が反社お兄さんに会わなくて済んで良くないか、と思うがそっちはそっちで色々あるらしい。  最近の親友は心配事だらけで表情が暗い。家族のことはどうしようもないが、男のことだけでも処理出来ないものだろうか。 「帰るよ。帰るけど」 「妹さん、寂しがってるとか言ってなかったっけ?」 「う」  この親友は他人を甘やかすけど身内にも甘いらしく、特に4つ離れた妹は可愛いらしい。が、あまり腹を割った話は出来ていないらしく、距離が出来てしまうと前にお酒を飲ませたら零していた。 「お盆に理由つけて帰らなかったんだし、帰らないと」 「わかってる…」 他人のサキには話せて、身内に話せないのは心に重いだろう。普通に家族仲は良さそうなのが逆に闇深いと肌で感じる。サキにはそういった経験が皆無なので理解までは出来なかったが、年明けに2人でお酒を飲んで少しだけこぼさせてあげよう、そう脳内スケジュールを組んだ。
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