暦 那兎

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暦 那兎

 ■の子なんだから髪を短くしましょうね。  そう言って、お■ちゃんの返事も聞かずに鋏を入れていく母に違和感を覚えたのはいつだったか。  私もお■ちゃんくらいにすると最初に言った時、あなたは違うでしょう?と穏やかに言い含めた母の顔を私はたまに夢に見る。だからか、それから何度もそう言われた気分になってしまう。  その後髪を短くしたいとは言わないでいた。それでも、家にお■ちゃんがいなくて、お盆も帰ってこなくて、年末には必ず帰ると言っていた言葉も信じられなかった。  お■ちゃんがここに帰ってきたくないんだと思いたくなかった。自分に会いたくないなんて、思いたくなかった。  今もお■ちゃんの髪は短いだろうか。去年の年末に帰ってきた時、髪がピンク色になっていてすごく驚いた。今年もなにか、驚く変化があるかもしれない。あの時は驚きすぎて、似合うねと言ってあげられなかったことが心残りだった。本当は言いたかったし、今すぐにもスマホに文字を打ち込み送信すれば良いだけのことが出来ない。一人暮らしを始めた時は毎日メッセージのやり取りをしていたが段々と減っていった。お盆に帰れないと連絡をしてきた時のものが最後だ。  髪を短くしようかな、と母に言ってみた。もう高校生なのだから、以前のように言われないだろうと思っていた。  女の子なんだから、長い方が可愛いわ。  そういつもと同じように穏やかに微笑んだ母は、最初に短くしたいと言った顔と同じで、同時に私もまだ小さいあの頃のままのような錯覚を覚え、反射的に違う、と言ってしまった。  何が違うというのか、自分は女に間違いないし、ショートが似合うかも自信はない。  それでも、驚く母に畳み掛けるように何かを喚き、そのまま部屋に戻り鞄だけ持って家を飛び出してしまった。  会いたかった。会って、話を聞いてもらって、頭を撫でて欲しかった。いつも私の話を聞いて、でも困ったように笑うあの人に。一緒に困ってくれるあの人に。
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