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電車に乗り、何度か乗り換えて目的の駅へと向かう。地域のメインになるような駅ではないので混み合っている様子はない。少し歩いたところに最近人気のストリートがあるので若い人もよく利用していた。駅の近くにはチェーンのカフェがあり、今日はそこで待ち合わせしている。
「お待たせ」
美久が小さく手を振って応えてくれた。くるりとカールした茶色い髪は彼女の性格を表しているかのように柔らかそうだ。ピンク色のリップが可愛さを引き立てている。季節限定のラテを飲んでいるようだ。
「待った?」
「ううん、待ってないよ」
ふんわりと彼女が笑う。
「忙しそうだね」
「そんなことないよ」
「バイト?」
「まぁね」
彼女には今日のアルバイトのことを詳しく言っていない。何となく悪いことをしていることは分かっていた。
彼女とは一般的に出会い系と言われるアプリで出会った。高校の時の友人に勝手に入れられて、流し見ていた時に彼女の写真に一目惚れしをしたのだ。メッセージのやり取りをしてしたら気があって、すぐ直接会うことになった。そのまますぐ交際して今に至る。
「アイスコーヒーとドーナツください」
注文をとりにきた店員に頼む。
「ケイくん、また甘いの食べてる」
「美久ちゃんも食べる?」
「ううん。いらなーい」
美久は首を振り、髪がふわりと広がった。甘い香りがする。
「ケイくんは甘いもの好きだね」
「美久ちゃんのことも好きだよ」
甘い言葉をかけると彼女は照れたようにはにかんだ。SNSで送る時とは違って胸が温かくなる感じがする。
美久の手元に旅行のパンフレットがあった。
美味しそうな料理やスイーツ、有名な観光地が載っている。
「旅行に行くの?」
「ん〜ケイくんと行きたいなって思って……」
上目遣いで遠慮するような口調で言う彼女に胸が高鳴る。
「いいね。行こうよ」
「……行きたいんだけどお金に余裕ないし」
「俺が出すよ」
ちょうどバイト代が入ったところだ。彼女のためならばいくらだって払える。それに美久との初めての旅行になるかもしれない。
「でも……」
「遠慮しないで。俺なんて美久ちゃんと遊ぶためにバイトしてるんだから」
「そんなことないでしょ」
「そんなことあるから」
彼女の手を握り見つめると彼女の頬は赤く染まり柔らかな手で握り返された。
「ありがとう」
「うん。じゃあいつ……」
「でも旅行代だけが不安な訳じゃないの」
「え?」
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