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美久の顔が暗くなる。目が潤んでいるようにも見えた。
「美久ちゃん、どうしたの?」
「お父さんがね……病気なの」
彼女の目から涙が溢れた。
「入院してて……手術が必要で」
「前も入院してたよね」
「うん。その時は投薬治療でいいって言われたんだけど、また倒れちゃって、今度は手術が必要なんだって」
美久の父は肝臓が悪いようだった。彼女はお酒をやめるように何度も言っているが聞いてくれたことはないらしい。
「手術のお金なんて私持ってないし……。もう夜のお仕事始めないといけないかも」
彼女は手を握り込みとても赤くなっている。美久に水商売をさせたくない。俺は誰にも彼女に触れてほしくなかった。
「いくら必要なの?」
「200万円」
高額だ。入院、手術となると医療費はそれ程かかってくるのだろうか。
「俺が払うよ」
「そんな悪いよ。ケイくんは関係ないのに」
「関係あるよ。美久ちゃんのお父さんだよ。彼女のお父さんを助けるのは当然だろ」
「でも……」
「それに……俺のお義父さんにもなる人なんだから」
「ケイくん!」
彼女の目が見開き、光がやどる。俺は今プロポーズみたいなことをしてしまったのではないだろうか。力強く言ったものの彼女に受け入れられるのか不安で心臓の鼓動が気持ち悪いくらいに聞こえてきた。
「ありがとう」
彼女は涙を拭きとり少しだけ笑顔を見せてくれた。よかった。彼女もそのつもりだったんだと思った。
「ケイくんの気持ちだけでありがたいよ」
「気持ちだけなんて。お金払うよ」
「ケイくん、そんなお金ないでしょ。私がいっぱい働いたらいい話だから大丈夫」
俺を安心させるように見せた笑顔は引きつっていて、彼女の明るさはない。
「あるよ。ほら」
俺は今日受け取った封筒を彼女の手に握らせた。
「ここに20万円あるから。それに貯金もちゃんとしてる。だから200万なんてすぐに払えるよ」
「こんなお金どうして?」
「バイトで稼いだお金だよ。だから気にしないで。美久ちゃんとのことにしかあんまりお金使わないから」
嘘は言っていなかった。闇バイトで稼いだお金は怪しく、手をだすのが怖くてずっと使わず、家の金庫に入れてあった。美久と交際を始めてしばらくすると、彼女の父が入院して、その入院費を払うために金庫を開けたのだ。他の生活費は別のアルバイトで払っていた。
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