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「ケイくんありがとう」
「いいよ。病気が治ったら一緒に福岡に行こうね」
「うん」
「残りのお金はすぐ持ってくるから、待ってて」
金庫にいくらあるか今は分からないがおそらく目標値に足りるだろう。すぐにでも彼女に渡して安心させてあげたかった。
「あ、私も行く」
「俺が持ってくるよ」
美久は俺の手を握って、一緒に行きたいと目で訴えかける。金庫の中を見られると不信感を与えてしまうかもしれない。
「どこにあるの?」
「……俺の家に」
「じゃあやっぱりついていく」
「いや、でも」
金庫を見られてしまったら終わりだ。闇バイトのことを知られて振られてしまうかもしれない。俺は手汗をかきながら焦っていた。
「だって私、こんな大金持って1人で待ちたくないもん」
彼女は頬を膨らませて少しピンク色の唇を尖らせた。先ほどまで流れていた涙は消えて、いつもの可愛い彼女に戻っている。確かに普通は20万を持ち歩くのは不安だろう。俺自身も初めは緊張していたものだった。ベッドの下に隠していたが、気になって眠れなくなり、金庫を取り寄せた。
「じゃあ家の前で待っていてくれる?」
「うん!」
満面の笑みをみて、彼女を安心させることができたのだと胸をほっとなでおろした。それに家の前だと金庫の存在を知られることはないだろう。
家に行く前に頼んだものは済ませようという話になった。話し込んでいて忘れ去られたアイスコーヒーのコップは結露してテーブルを濡らしていた。氷はとけ、苦味が薄くなっていてコーヒー風水を飲んでいるかのようだ。砂糖がまぶされたドーナツは、「安心してお腹がすいた」と言った彼女の口の中へと吸い込まれていく。美味しそうに頬張る美久をみて、思わず笑みが零れる。可愛い彼女が喜んでくれるなら、ドーナツの1つや2つ問題じゃない。彼女の役に立てる満足感に満たされていた。
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