詐欺には気をつけて

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 俺の家は駅から少し離れた場所にある。曲がりくねった坂の上にあるアパートの一室を借りていた。両隣は誰も住んでいないにも関わらず、募集はしていない。大家さんに聞くと誰かが借りてはいるが利用していないだけだという。たまに人が入ってはいるらしいので物置に使っているのではないかという結論になった。 「じゃあ美久ちゃん、ここで待っていてくれる?」 「分かった。いってらっしゃい」 ふんわりとしたブラウスを着た彼女は小さく手を振って、家のドアの前で待っている。 「いってきます」 俺は家の中に入る。取り込められたまま床に置かれた洗濯物をよけながら押し入れにたどり着く。黒い金庫を取り出して床に置き座り込んで、番号を回した。 カチリ 金庫を開けると白や茶色の封筒がいくつも入っていた。薄いものもあれば厚いものもある。その時々の成果に応じて払われていたからだ。俺は上から順に封筒を取り出して、お札の数を数えようとした。 「それが私のお金?」 背後から聞きなれた女性の声がして振り返るとシフォンのワンピースが目にはいった。笑みを浮かべた美久が俺の後ろに立っていた。 「いっぱいあるね」 「美久ちゃん?」 彼女は僕の横に腰を下ろし、白い封筒を手に取った。 「家の前で待ってるって言ったよね」 背中には汗が流れ動悸が激しくなっている。 「うん。でも寂しかったから」 悪気がない様子で彼女は腕を絡ませてくる。この大量の封筒を見られてしまった。焦る気持ちを抑えながら頭をフル回転させようとした。 「このお金どうしたの」 一番薄い封筒を手にした彼女は俺の目を見ながら尋ねた。 「それは……バイトでもらって」 俺の粗末な頭は大した言い訳を思いつくことはなかった。彼女はなぜか残念そうに眉を落とし、首を振った。 「違うよ。私は誰のお金って訊いてるの」 「誰って……俺のお金だよ。これ全部俺がバイトで貰ったものだ」 彼女の大きな目が俺を映した。きれいな黒目は何もかもを見透かすかのように思えた。厚い封筒をいくつか手にした彼女は俺の手にその封筒を持たせた。 「これも、これも、私がロイくんにあげたものだよ」 俺は衝撃で言葉を失った。どうしてその名前を知っているんだろう。それは芳佳とやり取りをするときの偽名だ。喉が渇き、手が震えそうになるのを必死でとめる。 「ロイって誰?俺知らないけど」 ふふふと彼女は面白そうに笑う。 「ケイくん、冗談うまいよね。いつも私にロイていう名前で連絡くれるのに」 可笑しいと笑って彼女は俺の肩に頭を乗せた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加