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そして歩くこと十分。
「ほら、着きましたよ。ここです」
「…ここ?」
そこは普通の一軒家だった。表札には『伊藤』と書かれている。
「ここがどくろじじいの家なんですか?」
「かもしれないってとこですね」
蓮乃愛ちゃんの問いに緑川がそう答える。
「んー呼び鈴鳴らしてみますかねぇ…」
緑川が独り言のようなことをつぶやいた時、近くで物音がした。目の前の家は庭があるが、ブロック塀や低木が邪魔でよく見えない。しかしそれらの隙間から何か大きなものが動いているのがチラチラ見えた。どうやらこの家の庭に誰かいるようだ。
「声かけてみますかね……あの、すみません」
緑川が声をかけるが、人影は動こうとしなかった。
「あの、すみませーん!」
緑川が再度大きな声で呼ぶと人影は門扉のところまで移動してきた。私も門扉の近くまで移動する。
「あ?なんだ?」
そう言って出てきたのは麦わら帽子を被った老人だった。チェックの服と茶色のズボンをはいている。これって……。
「あ、さっきの人だ!」
蓮乃愛ちゃんが驚いた様子で言った。
「森永君、この人?」
「……あ、あぁ」
私が森永君に尋ねると彼も戸惑いながらも肯定した。
どうやらこの人がどくろじじいのようだ。
「お、どうやら当たりのようですね」
緑川がそう言って笑った。心なしか得意げだ。…かわいい。
「…なんでわかったんだよ」
森永君が不貞腐れたように聞いた。こっちもかわいい。
「ふっ。あれですよ。っと、ここからじゃ見えませんね。少し入ってもいいですか?」
「あ?なんて?」
最初の呼びかけにも反応しなかったし、どうやらこの人は耳が遠いようだ。
もう一度入ってもいいか大きな声で聞くために緑川が息を吸ったところで玄関の扉が開き、おばあさんが出てきた。おそらくこの人の妻だろう。
「どうしたんですか?」
こちらに歩きながらおばあさんが聞いてきた。
「あぁ、すみません。そこのキンギョソウを見せてもらおうと思ったのですが……」
キンギョソウ?なんだそれ?
「え?えーと…失礼ですが、あなたたちは……」
「あ、すみません。私Fleurというカフェを経営しています緑川樹と言います。こちらはバイトの花崎さん。こちらの二人の小学生がご主人からどくろの飾りをもらったと言っているので、確認に来たんですよ」
「どくろ!?そうでしたか……。あ、どうぞ……」
緑川の説明に一瞬驚いた後、どこか納得したような様子でおばあさんは門扉を開けてくれた。
「おい、ばあさん。なんで扉開げるんだ?」
「庭の、お花を、見せてほしいって!」
おじいさんが聞くとおばあさんは大きな声でそう返事した。
私は小さくお邪魔します、と言って敷地の中に入る。さっきは見にくかった庭の様子が見える。結構広くて所々に菊や薔薇が咲いていた。ここら辺は田舎なので基本駅前とかじゃなければ庭付きの家なんて珍しくない。最もFleurは広すぎるが。
「ほら、あれですよ」
そうして緑川が庭の一角を指さした。…枯れている草しか見えないが……。
「ほら、これ。見覚えありません?」
「……あ!」
私は驚いた。上下さかさまになっているが、まぎれもなくあのどくろだ。あれは植物だったのか。
「あのどくろだ!これがさっき言っていたキンギョソウってやつですか?」
「えぇ。これがどくろの正体です」
そう言って緑川はにやりと笑った。…笑顔かわいい。
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