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第9章 キンギョソウ(4)
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「キンギョソウというのは地中海沿岸原産の園芸植物です。こんな花が咲くんですが、この赤と白の花びらを広げる姿が金魚のようだということでキンギョソウという名前がついたんです。最も今は多種多様な品種が開発されていますから一概にそうとは言えませんけどね」
机の上に置いたスマホを私たちに見せながら緑川はそう言った。
あの後、「申し訳ありません。あの、もう少し詳しく話していただけませんか?」という奥さんの言葉を受けて私たちは伊藤家にお邪魔することになった。そして奥さんがお茶を淹れている間に緑川による詳しいキンギョソウの話が始まった、というわけだ。ちなみにご主人の方は机の向かい側に座って明後日の方を向いてぼうっとしている。
「花崎さん、覚えてます?」
ふいに緑川が私に尋ねてきた。
「え、あ、すみません。何ですか?」
「あ、いや、前に花崎さんにもキンギョソウを紹介したんですけど…覚えてます?」
「え?えーと………」
「…覚えてないようですね」
「……すみません…」
「まぁ、教えたの二か月前ですからね。しょうがありませんね。ほら、花崎さんが初めてうちで働いた時、庭を案内したでしょ?あの時ですよ。」
確かにあの時色々花を紹介されたが、そんな前なら覚えているわけない。うん、私は悪くない…はず。
「ちなみにこのキンギョソウ、〇灯の冷徹でも出てきます。かなりデフォルメされていましたけどね」
そういえばあの作品で気持ち悪い金魚の植物が出てきていたな…。あれ、実際にモチーフがあったんだ…。
「お待たせしました。どうぞ」
そこへ奥さんがお茶をもってやってきた。私たちの前にお茶を置いた後、机の向かい側、つまりご主人の隣に座った。緑川は「どうも」と言いながらキンギョソウの話を続けた。
「で、本題ですけど、このキンギョソウ、花を咲かせた後にどくろのような種鞘(たねさや)を作るんですよ」
「たねさや?」
「文字通り種をいれる鞘みたいなものですね。ほら、ソラマメとか鞘の中に豆が入っているでしょう?キンギョソウはその鞘の部分がこのようなどくろの形になるんですよ」
「へー不思議ですね。なにか意味があるんですか?」
「んー多分ないと思います。鞘の中の種をばらまくのに穴が開くわけですけど、それが偶然このような形になるだけのようですね」
私の質問に緑川は少し考えるようにして答えた。
「でもよー、それを人に渡すのはどうなんだよ」
森永君がちらりと伊藤さんの方を見て言った。確かにあのどくろが何なのかはわかったが、意図はわからない。
「古来より海外ではキンギョソウには魔力があるとされてきました。なんでも海外では香りが強い植物は魔よけの効果があるとされていたそうです。身に付けていれば厄災から守ってくれるとも言われています。最もそれは花のことであり、このどくろのことではないんですけどね。キンギョソウは花が終わった後、どくろになるというのがインパクトが強くてそれに付随する『魔よけの効果がある』という情報から『キンギョソウ=どくろになる=魔よけ』みたいな誤解が時々あるんですよ。私も勘違いしていましてね。昔日下に言われました。種苗店で働いているのでキンギョソウのことを知っていたようですね」
「じゃあ女子に渡してたってのは?」
森永君の問いに動じることなく緑川は答える。
「キンギョソウの伝説は他にもあって女性が身に付ければ魅力が増すということも言われています。また花を食べれば若返るという伝説もありますね。まぁなぜ小学生に渡していたのか、まではわかりませんけどね」
緑川はそう話し終えて、出されたお茶をずずっと飲んだ。
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