33人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、じいさん」
森永君はご主人に呼びかけたが、反応はない。
「おい、じいさん!」
「はぁ?」
大きな声で言われてようやくご主人は森永君の方を向いた。何をするかと思えば彼はご主人に向かって手を差し出した。
「どくろ…まだあるのかよ?…もらってやるから……よこせ」
森永君は少し言いにくそうにして言った。視線をそらしている。
「森永君……」
「勘違いすんな、あの時は蓮乃愛の代わりにもらっただけだ。俺の分もらってなかったからもらってやるってだけだ。別にこのじいさんがかわいそうとかいうわけじゃねぇよ」
蓮乃愛ちゃんの心配そうなつぶやきに森永君はぶっきらぼうに答えた。…典型的なツンデレだな。
一方ご主人の方は……。
「何?なんだって?」
やはり耳が遠く、さっきのセリフは聞こえていなかったようだった。
「だ、だからどくろだよ!どくろ!まだあんだろ!?」
森永君は同じことを今度は顔を真っ赤にして大きな声で言った。…かわいい。
「…もらってくれるのかい?」
ご主人は静かにそう言った。
「何だよ、文句あんのか?男がもらったらだめなのかよ!?」
「…ありがとう」
森永君の乱暴すぎる答えに伊藤さんはにへらと笑った。歯の抜けた口で無邪気そうに。横にいる夫人も「ありがとう」と静かに言った。その眼には少し涙が浮かんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!