第9章 キンギョソウ(5)

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************** 「しかしあれですね、生意気な子でしたねぇ」  やはり多少むかついたのか疲れたように緑川が言った。蓮乃愛ちゃんと別れてから私たちはカフェFleurに向かって二人で歩いていた。 「まぁあれくらいなら私はかわいいと思いますけどね。さすがに『死ね』とか言われたらむかつきますけど」 「最近の小学生はそれくらい平気で言うらしいですからねぇ。ゲームの影響ですかね。しかもやたらと私に対して絡んできてませんでしたか?あの子。私何かしましたかねぇ?」 「あぁそれは……」  緑川の問いに答えかけて私は躊躇した。言ってしまっていいだろうか。本人は隠したがっていたようだし…。 「何です?やはり私、何かあの子に対して失礼なことを…」 「あぁいやいや。そうじゃないですよ」  まぁこのままこの人不安にさせとくのもまずいし、口が堅い(無口なだけだが)から大丈夫だろう。それに生意気な小学生にはこれくらいの仕返しがちょうどいい。私はそう判断して話すことにした。 「多分森永君、蓮乃愛ちゃんのことが好きなんですよ」 「…そうなんですか?」  私の言葉に緑川は意外そうに目をパチパチさせていた。 「ほら、森永君、最初私のことも警戒してたけど、店長のこともっと警戒してたでしょ。多分あれ、店長が男だったからですよ。店長が蓮乃愛ちゃん褒めた時もおもしろくなさそうにしてたし」  まぁ私もだけど、と私は心の中で付け足しておく。 「店長に対抗心燃やしてたんじゃないですか?あれ。それに蓮乃愛ちゃんから聞きましたけど最初蓮乃愛ちゃんの名前からかってたらしいですよ?好きな子にちょっかいかけるってやつですよ、きっと。今日もどくろを渡されたとき、蓮乃愛ちゃんのことかばったらしいですし。きっと素直にお礼言えなかったのも悔しかったからじゃないですか?好きな子の前で他の人がカッコよかったらいやでしょ」 「はぁぁ…なぁるほど。そういうことでしたか。すごいですね、花崎さん」  感心したように緑川が言った。 「そうですか?結構わかりやすかったと思いますけど…」  推理は得意なのにこういう人の感情を読み解くとかは苦手なんだよなぁ、この人…。鋭いのか鈍いのかまったくわからない。 「いえいえ、この間の推理よりずいぶんましですよ。私も納得できましたし」 「…あれはほんと忘れてください」  …これは煽ってんのか、素なのか…。赤くなってうつむく私には判断がつかない。
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