35人が本棚に入れています
本棚に追加
/199ページ
第9章 キンギョソウ(6)
**************
そして二日後。講義が終わった私はカフェFleurに向かっていた。別に今日はバイトはないのだが、予定はないし、好きな人と過ごしたい。二人っきりだといいなぁ、とバイトとしてあるまじきことを思っているとFleurが見えてきた。と、同時に目を疑うようなものも見えた。私は慌ててドアを開けて店に入る。ドアのベルも驚いたようにカラン、カランとせわしなく鳴った。
「あれ?花崎さん?どうしたんですか?」
「いやいや!なんですか、これ!?」
「え、何って…キンギョソウの飾りですけど…」
そう。ドアにあろうことかあのどくろの飾りが飾られていたのだ。
『OPEN』の札の少し上の釘にひっかけられている。
「いやいや、そうじゃなくて!なんで店のドアに飾っちゃうんですか、これ!怖いでしょ!」
「うーん…やっぱ怖いですかね?よくできてるのでちょっと飾ってみたくなりまして…。前から『何か飾ってみれば?』と日下に言われていたので丁度いいかなと思ったんですけど…」
緑川があごに手をあてながら言った。私は改めて飾りを見る。…うん、正体がわかってもやっぱり不気味だ。店の外観も黒いから余計に悪い。
「いや、こんなの飾られてたら怖いですよ。この店の外観も黒いんですからヤバい店に見えちゃいますよ。オカルト系とか…」
「うーん…じゃあドアの内側に飾るとか…」
「…いや、それくらいなら、まあ、いいかな?そんなに飾りたいんですか?これ」
「別にそこまで」
「…じゃあもう飾らなくていいんじゃないですか?」
「ふむ。では取り外しましょうか」
緑川との問答に私は頭が痛くなってきた。まぁ確かによくできてるし、そういうの好きな人もいるかもだけどさ……。
「あ、花崎さん飾りいります?ほしかったらあげますよ。身に付けてたら魅力が増すかもしれませんよ?」
「いいですよ!こんなの身に付けてたら美女じゃなくて魔女になっちゃいますよ!大体それ花の話でしょ!」
緑川の提案を私は即刻切り捨てる(伊藤夫妻には悪いが)。
ほんとにこの人は……。頭を抱えながら私はもう一度どくろを見た。相変わらず笑っているような泣いているような顔だ。しかし私には今このどくろが笑っているように見える。
「笑うな」
私は小さくつぶやいてどくろの一つをデコピンした。すると飾りが揺れてカサカサと音がして一層笑われているような感じがした。
やっぱり伊藤夫妻には悪いが私は好きになれないな。ドアで揺れるどくろの飾りを眺めながら私は改めてそう思うのだった。
――to be continued
最初のコメントを投稿しよう!